ブチ目
ビデオが絶対に必要だなと認識したのは、6年前。1974年秋の『アルプスの少女ハイジ』と『宇宙戦艦ヤマト』が裏番組になった時だった。
池田憲章氏に言わせると『猿の軍団』を忘れるなぁという時期なんだけどね。
さらに、もっと必要となったのはその2年後。
我々のような集団は、それぞれ何かしら得意なジャンルがあった。
ストーリーを丸ごと覚えている人間や、手元を見ずにスタッフ名をノートに書き写せる人間、BGMを聞きながらコードを書き写せる人間などなど。
雑音だらけのラジオを聞きながら育ったせいで、ノイズの中から人の声だけを拾えるテープ起こしの達人なんて変わり種もいましたが。そんな中で、年齢としては数歳しか違わないのに生まれた時からカラーテレビを観て育った人間の凄さを見せつけたのが出渕裕氏だった。
かの有名な『ゲッターロボ』の隼人脱出シーン。
かなり原作とは異なる協調路線で放映された『ゲッターロボ』だが、だんだんシリアスな話になりつつある時、隼人が爆死。
「えーーーっ原作にないぞ」とお茶の水の喫茶店で盛り上がっている時に、出渕氏だけが「えっ、爆発寸前に海面に身を投げているじゃないですかぁ」と言い出した。
「そんなシーンねぇよ」とブーイングの嵐が起きますが、出渕氏慌てず騒がず「みんなの目は節穴ですか? どっかにビデオないですかねぇ」と隼人脱出を力説していた。
それじゃあというので先週録画している人間を捜して呼び出し、みんな揃ってまんが画廊に大移動。
「ほら、見ろ、爆死してるよ」
となったのですが、出渕先生少し戻してコマ送り再生にいたします。
「いいですか、次のコマです」
みんな呆然、コクピットから人型の黒い影が一コマ、ついで不鮮明な黒い影がもう一コマ、たしかに海面にダイブしているのでした。
「いや、それって演出的にどうなのよ」
という意見もありましたが、たしかに絵としては存在しているわけで、この勝負は出渕氏の勝ちとなりました。
「動体視力の問題で済ましていいのかねぇ。ひとつは人型だけど、もうひとつは黒い影だぜ。早い話が、ブっちゃんだけは1/24秒の世界が見えてるわけよ。今後、こういう演出が普通になったら、我々の世代はついていけなくなるぞ」
と、まぁ高校生である出渕氏の目の良さは、業界を震撼させたというわけだ。
我々も目の訓練を積み、意識した作画、たとえば板野ミサイルが飛び交う中をバドワイザーの缶が飛んでいるくらいは見分けられるようになる。
しかし、出渕氏より若い世代になると、ほんと1コマの映像を脳裏に焼き付けるようになり、それどころか導線を無視した絵まで見えるようになるのでした。導線というのは人が見る事を意識したレイアウト。つまり画面左下から右上に主役ロボットが飛べば、普通の人はその絵を視線に捉えます。その時に画面の角にアニメーターが落書きした絵があったって見落とすでしょ。若い世代には、そういう絵まで見えてしまっているわけです。遊びであれば、後でスチール写真を載せて、「ほら、ここに××が」とキャプションを入れれば済む話。
だけど主人公の一人が生きているか死んでいるかでは見解がかなり異なるわけだ。
後に勇者ライディーンでブルーガーからミスターが脱出するシーンでもこれに類似の演出があり、ビデオがなきゃあ仕事にならないぞと強く感じたのだった。