命がけのセル撮影
「ともかく背景付き原画はだいたい押さえるが、特に希望はあるか」
セル撮影に行く前に私は二代目に確認する。早めに撮影しないと、日本アニメもショップを経営しており、セル画は売られていく運命にあった。まだ整理されていないセル画をできるだけ早く撮影しておく必要があるのだ。
「全部です。小牧さんの思う名場面と、私が考える名場面は微妙に違う場合がありますから、ともかく全部撮影しておいて下さい」
カメラ万太郎氏のカローラに乗り込んで、私はセル撮影に出掛けた。前回のベルサイユのバラの撮影は真冬で倉庫での長時間の撮影は足が凍えたが、初夏の事なので比較的撮影は楽であった。背景がないセルであっても空バックにして使えそうな物はだいたい撮影し、持って行った35ミリフィルムはほとんど消耗していた。昼から始めた撮影は夕方には済んだ。
成績桜ヶ丘では下校途中の女学生の群れとすれ違うが、これは完全にスルーの方向でカローラは進む。
「万太郎さんが女学生を撮影するといいだしたらどうしようかと思ったよ」
「僕にはそういう趣味がありませんから」
が、いきなりカローラは畑に乗り上げた。何事!
「いやぁ、いいですねぇ赤いランドセルが菜の花畑を背景に行くのは」
「万太郎さん、前見て運転してね」
そっちの趣味かよ、この人は。コミケ会場で女子高生の露出度の高いコスプレ写真を淡々と撮影するプロフェショナルだと思っていたけど、対象年齢が違ったのね。なにしろバイパスまでは数分で出られる道を30分もかけて通学路をジグザクに進む白いカローラ。今、こんな真似をしたら不審者で捕まります。
「万太郎さん、ここ一通」
「ええい、もう一本向こうだと逆光になるのに」
撮影してるわけじゃないから、逆光は関係ないのだろうに、低速運転の怪しいカローラは、小学生の群れをあらゆる角度から追尾していた。結局、歩道に乗り上げる事数回、畑に飛び込むこと3回という恐怖のドライブに私は付き合わされることになってしまった。これ以後、何か用事があっても聖蹟桜ヶ丘には夕方の時間帯は極力近づかないようにしている。
こうして命がけの撮影をしたポジフィルムは、二代目にえらく好評で、そのほとんどがアニメック12号に使われた。表紙やピンナップはもちろん、目次のカットまですべてアンで埋め尽くされた、まさに「赤毛のアン特集」として読者からの評判も良かった本が着々と編集されていくのだった。
「うーむ、万太郎さんの少女観は間違っていますねぇ。最近は何でもかんでもロリコンでくくっていますが、ここらで正しいロリコンの概念をアニメックで特集すべきでしょう」
「まだ早いわい。すくなくともアニメ誌でやるべきことじゃないだろう」
が、この二代目の野望は比較的早めに実現することになるのである。それはまた別のお話。