赤毛のアン
「赤毛のアン」は、当初からやりたかった企画である。U杉とは一段落したらやろうなと言いつつ、ガンダムに追われて手を付けないまま放送終了から半年が過ぎていた。「赤毛のアン」のファンは多いが、参考資料となるものはテレビガイドの毎号1頁のストーリー・ダイジェストくらいのものであった。これもセル撮影が間に合わせず、微妙に成長するアンに追いつかないバンク流用の物である。作画スケジュールもかなりタイトな時期だったので、事前に提供される絵でよくまとめた物だとは思う。
版権交渉は難なくまとまり、日本アニメに行く時には「聖蹟桜ヶ丘」を何時に通過するかで、二代目と一悶着があった。このあたり二代目の主張は鋭い。
「少し早く行くべきです。そりゃあ10分前に着くのは常識ですが、下校時間はもう30分早いんですから」
「いやさ、下校時間って何か関係あるのか? 混むだけでしょ」
「編集長たる者が何を言ってるんですか。いいですか、××高校、△▽学院、○○付属とですね、このあたりは芸術的な制服の女学校のメッカなんですよ。あの芸術的な制服の群れが衣替えの直後の夏服で、薫風に乗って大移動をするんです。それを見ないで、まともな編集ができると思いますか?」
「よくわかんないけど、30分早ければいいのね」
「そういうことです」
かくして、聖蹟桜ヶ丘で女学生の群れを鑑賞した後に、日本アニメに向かったのである。私から見ると、どれも似たような制服なのだが、二代目の観察眼は違った。スカート丈が実は可変タイプであるとか、同じ紺の靴下であっても学校指定とは微妙に違うあたりを色々と指摘されたのだが、私にはさっぱりわからなかった。
「で、これは赤毛のアンとどう関係するわけ?」
「関係ありません。常に最先端の制服を観察しなければ、学園アニメもの等もちゃんと鑑賞することができなくなるんですよ」
趣味? 趣味にしちゃあ真剣なのでよしなのかなあ。実際問題として、キャラクターコスチュームやイラストの服装に関する注文は、彼は細かかった。帽子ひとつでもかなり厳しいチェックが入ったものである。やはり、メカを主体に見ていた人間との違いなのだろう。
私の場合、人の趣味には寛大である。周囲に迷惑をかけなきゃ、鉄ちゃんだろうが、軍事オタクだろうが、どっかに使い道はあると信じているからなのだが。逆にファッション関連に煩い人間はあまりいなかった編集部なので、これはこれで良いのだろうと思っていた。
かくして、山と抱えた設定資料や台本と格闘を始めた二代目。フィルムは借りなくても倉庫に残るセル画だけでカラーページの構成は出来そうであった。