アニメックの頃… 著/小牧雅伸

第6回 「ガンダム狂想曲」

1979年のこぼれ話

1979年年末の話題は実に多く、大きな書き残しがあったのでもう一度ここで記そうと思う。
1979年(昭和54年)の11月には、本家・日本サンライズから、「機動戦士ガンダム 記録全集1」2700円が発売された。これに私は、まったく関与していない。なにしろ本家だから、企画設定当時からの資料が満載で、初期設定も漏れなく記載された本である。
しかし、重大な欠陥が露呈していた。カラーページのストーリーダイジェストが、15ページから83ページ全て第一話「ガンダム大地に立つ」なのである。約70ページと、全てのシーンが網羅された素晴らしい記録なのだが、ちょっと待って欲しい。
「う――ン、それじゃあ、全部で43巻出すのか?」という疑問だ。
それはないだろう。

「小牧ちゃん、編集者としてこの本どう思うよ」
ある日、見本誌を渡された私は山浦部長にそう尋ねられた。
山浦栄二氏は、企画室部長であるが、日本サンライズ当時の重役である。10年後の1987年に株式会社サンライズに商号改称した際には、社長に就任している。早い話が現場でのトップは山浦さんであり、このような質問をされると忌憚のない意見を出すのが私のポジションでもあった。部外者をいいことに、好き勝手に作品に文句を付けていただけという説もあるが、確かにそうだったかもしれない。読んでいる人にとっては縁遠い存在かもしれないが、山浦部長=矢立部長という図式が、私の頭の中にはある。企画室部長という雲の上の存在ながら「子供に受け入れられる作品か否か」を常に考えて、周囲のリサーチを怠らない人だったのは間違いない。非常にざっくばらんな人で、いつも本質を尋ねられるので、かなり辛辣な意見も出したように記憶している。実際、この時もそうだった。
「山浦さん、たしかに資料性の高い本ですよ。マニアなら買います。ですが、この値段の本を何冊売る気ですか? 主力の中学生、高校生には負担が大きすぎると思います」
ため息をついた山浦さんは答えてくれた。
「それくらい考えてる。無理して揃えてくれるとしても、5冊が限界だろ」
「じゃあなんで……」
「皆まで言うな。そういう事なんだよ。なんとかしてくれ」
唖然である。ガンダムを全5冊にまとめるなら、1巻のカラー・ストーリーにはせめて5話の「大気圏突入」まで入っていなくては収拾がつかないではないか。
「えーと、ですねぇ…2巻の編集はどうなっていますか?」
恐る恐る質問した。
「もう入ってる。このままだと5話で終わる可能性があるな」
そんな無茶な……である。43話分の密度と構成を逆算すれば、5巻で納まるわけがない。
「しかし、人が編集している本を根底から覆すのは無理ですよ」
本には制作者の意志が反映される。最初に「どのような本にするか」という確固たる意志がなければ、土台無しで家を建てるくらいグタグタになってしまうものだ。
「だからさぁ、それがやりくりできる人間は他にいないだろう。君より優秀な編集者だったら幾らでもいるぜ。金払って解決するならそういう人に頼むさ。だけど、ここまで動いてしまった本を、だ。途中から路線変更したように思われず、なおかつちゃんとまとめるのが可能なのは、ガンダムファンが何を求めているか知り尽くした小牧ちゃんしかいないだろ」
わぁ、すごい口説き文句。
確かに難しいが、2巻で応急処置をして3巻から立て直せば、予定調和の全集にはなるはずである。
考えてみれば、年間11回しか給料が出ていないとはいえ、私は株式会社ラポートの社員である。山浦さんとの口約束だけで、こんな大きな仕事を引き受けていいのだろうかという部分もあったが、やるしかない。今必要なのは、時間である。編集部にとって返すと、昼間の指示だけで仕事を片づけ、夜中は記録全集に移行するという、とんでもないシフトを考えた。無理である。どう考えても時間が足りなかった。アニメック本誌を出すだけで、ギリギリの時間しかないのに、それは不可能だった。翌日、2巻の修正案を持って山浦さんを訪れた私は正直に無理であることを告げた。
「月刊で、無理なことは承知だ。読者が待てるのは、どのあたりだと思う」
「最終話を見て半年以内。ぎりぎりで春でしょう」
「じゃあ、それで頼む」
うわぁ、またとんでもない宿題をもらった小学生みたいな状態になってしまった。
修正2巻を春に出す……それでも私はひとりしかいないんですよ、山浦さん。
この日から資料室のイイヅカさんの電話攻勢が始まった。夕方になると電話が掛かって来て「修正案にある記事の詳細を出せ」「設定資料はどれを用意するのだ」「発掘資料を見に来い」と矢の催促である。年末になると「うちの小牧はいますか」と無茶苦茶な電話をかけてくるようになっていた。私は日本サンライズの社員じゃありませんって……。

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