アニメックの頃… 著/小牧雅伸

設定書の秘密

「宇宙戦艦ヤマトファンクラブ」の同人誌では、スタジオぬえの詳細な設定書がどれだけ綺麗に印刷できるかが肝だった。当時の同人誌としては大変珍しいオフセット印刷というのは設定書をどれだけ精密に印刷できるかの戦いだったのだ。これが商業誌になると、かなり厳しいことになる。製版というのは縮小技術の集大成だ。朝日ソノラマの「ファンタスティックコレクション」や、少年画報社の「手塚治虫アニメ選集」の時には、半分に縮小までは認められたが、25パーセント縮小になると編集部と印刷所から待ったがかかった。技術的な問題である。

話が前後して申し訳ないが、連載がマニフィック創刊の時から始めたので、取りこぼしが幾つかでている。何人かの読者から、「アニメ創世記の話なのに『マンガ少年』が出ないのは変だ」という、ご意見が届いている。
申し訳ない。まさにその通りで、朝日ソノラマの「マンガ少年」が存在しなければ、アニメ雑誌ブームはもう少し遅れたのは間違いない。特に当時の村山実編集局長が、若手ライターを起用して下さらなければ、世に出るチャンスがなかった人は多いだろう。もちろん、私もそのひとりである。「マンガ少年」には直接関わってはいないが、ファンタスティックコレクション「ガッチャマン」は最初に関わったアニメムックなのだから。アニメと特撮では、ファンタスティックコレクション、略してファンコレでデビューしたライターや編集者は実に多い。特撮関係だと、後に創刊される「宇宙船」で世に出た人も枚挙のいとまがない。私の恩人のひとりである村山編集局長については、後に改めて語りたいと思っている。

話は戻って、縮小印刷の技術的な問題とは何かである。最近はコンビニの白黒コピー機も精度が良くなったが、試しに細かい線画を25パーセント縮小してみると、細い線が飛ぶはずである。室内設定や美術設定は耐えられても、キャラクターの立ちポーズや表情集を縮小すると印刷できなくなるのだ。大日本印刷の平松課長とは、「この本の売りは、できるだけ正確に、なおかつ大量に入れるこの線画になります」と説明し、早くから実験をさせてもらっていた。もともとB4サイズの紙に鉛筆で描かれた設定書は、B5サイズになるとかなり細かい線が飛ぶのである。
今はコピー機もデジタルになり、解像度が良いので、製作会社ではA4サイズにコピーした原版を複写して各出版社に配布している。当時はコピー機の性能差もあり原寸のB4を製版して縮小というなかなか不便な作業であった。

単純なところでは、B6に縮小して1頁の上下に二枚という方法もある。だが単調な上に、重要な物もどうでもいい物も同寸になってしまうという難点があった。私は重要度を決め、キャプションをつけながら一度設定書を分解して、新たなレイアウトで見せる方法を選んだ。
ところが、ここに新たな問題が発生する。製版代金である。B5サイズの本の1頁に、B6サイズが2枚だったなら、これは製版枚数、2枚の計算だ。しかし、アムロの立ちポーズ、座りポーズ、表情、服装のように細かく分割し、それぞれ縮小率が異なる図版として入稿すると、16点あれば製版代金も16枚必要になるのだ。白黒ページですら、この計算である。カラーともなると、ページに入れる写真点数に応じて製版代金が嵩んだのである。
かくして、大日本印刷の平松課長は、小牧からは精密な再現を求められ、伊沢部長からはページあたりの単価を下げるという理不尽な要求に対応することになった。結果としてページ単位でいちいち枚数を数えて伝票を切るというのは効率的ではない。特に入校時に伝票を苦手とする編集部で伝票を切ると、編集時間が倍に延びる可能性があった。苦肉の策として白黒ページは15点、カラーページは12点までを限度としてグロス計算という方式になった。
「小牧よおーっ。ガンダムとかホワイトベースはいいぞ、デカイからな。小物の時はどうする? 絶対に点数を超えるぞ」
常に地面に足をつけた堅実な考え方のU杉が頭を抱えた。
「作ればいいじゃん。たとえば、こんな形な」
私は「ガンダム」の設定書コピーを切り張りしてみせた。胴体の三面図、頭部の三面図を切り張りして二枚の図版を作ったのだ。
「なっ、単独だと6枚だけど、胴体1枚の頭1枚の2点扱いだろ」
我ながら凄い発想である。こう書くと簡単だが、ラフデザインをするU杉は大変なのだ。文章の位置、切り張りして入るかどうかのパズルをページごとにしなければならないからだ。

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