アニメックの頃… 著/小牧雅伸

超巨大ポスター誕生

「この本は、ピンナップってもんは付けられないのか?」
再びU杉が、思いつきを口にした。私は与えられた枠の中で最大限の事をするのに慣れていたから、こういう発想がなかなか出ない。考えてみれば「マニフィック」は、ポスターや絵はがきを作っている印刷所に頼んでいた。大手印刷所と比較すれば規模は小さいのだが、35ミリフィルムですら半ページサイズに綺麗に製版できる技術があった。パンフレット類を作っているという事ではかなり融通が利くのではないだろうか。
かくして、伊沢部長と印刷所に行き相談する事になった。予算が少なく大判ピンナップは、用紙の都合でB5の本では、倍寸法B4三つ折りにするしかなかった。なによりも糊付けが別行程でかなり高くなるのがネックである。なんとか通販で一万部を売れきったようにみえる創刊号だが、実際最後の千部ほどは2万円以上お買いあげのお客様に無料進呈しているので百万ほどの赤字決算になりそうである。これ以上の予算は組めなかった。
「今なら、B2裁ち切り用紙が安いのですけどね」
印刷所の責任者の話を聞き、ちょっと閃く物があった。
「すいません、製版する時に二つ折りにしたポスターを真ん中でステップラーで止めるというのは可能ですか?」
「できますが、取り外すには、一度ステップラーを外す必要がありますが」
印刷所は即答した。
「それでいきましょう。値段は用紙代・製版代・印刷代のみの追加で」

伊沢部長としては反対のようである。
「そんな本をばらすような事を読者がするのかよ」
「何をおっしゃる。こんな本を買ってくれるんですからね。マニアに決まってますよ」
かなりの暴言ではあるが、マニアは労を厭わないのである。

かくしてマニフィック2号は、本の中央のステップラーの針を一度伸ばし、ポスターを引き抜いて、再び曲げるという変則的な手法で、綴じ込みB2ハイジポスターが入手できるというとんでもない本に仕上がったのだ。

今ではどうかわからないが、クレームは無かった。「なんちゅう付録やねん」と呆れたという感想はかなり貰ったが、苦情は皆無だったと記憶する。念の為に四つ折り状態にしただけのハイジのポスターも数百枚余分に刷り、「外す時に破れた」というクレームに備えたのだが、交換要求が皆無であった。当時のマニアは、雑誌のアニメ記事のスクラップブックや、単行本になりそうもない連載漫画を本をバラして保存するのが日常作業だったので、この程度では驚かなかったのだろうと思う。
逆に、四つ折りポスターの一面だけを本誌に糊付けした本だと立ち読みで破れて返本が増えたということで、これはこれで何とかなった例である。
年末セールでは、本の広告を兼ねて店頭にこのポスターを貼りだしたが、それなりの人気で、欲しがる人も多かった。
「あのハイジのポスター、針を伸ばしてポスターを取ったあと、再び針を曲げた後に裏からスプーンでこすってふさいだんですよ」
という、業界関係者が編集部を訪れると、この穴無しバージョンをお土産に差し上げるという習慣が一年くらい続いた記念すべき初付録だった。

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