文字の太さの謎
実は、「ザンボット3特集」のカラーページは、不思議な体裁となっている。漢字が太く、ひらがなが細いのである。これはフォント(活字の字体)が同じ物しかないという印刷所の事情によるものだ。同じ物なら違わないだろうと思う方が多いと思うので説明しよう。
読んでいると気が付かないことだが、コミックのフキダシに入るフォントは、実は漢字や英数字やひらがなは違う物を指定し、読んだ時に同じ大きさと太さになるように編集サイドが調整しているのである。これをまとめてコミックフォントと呼ぶ。
「そういえば、マンガが入った本、作ったことなかったもんなぁ」
U杉と二人で、マンガ指定を泥縄で勉強したので、次号からのマンガではこのようなミスはなかったのだが、何でもかんでもぶっつけ本番という、とんでもない編集部だったのである。ありがたい事に、このように初歩の初歩から経験していたおかげで、2000年頃からDTP(デスク・トップ・パブリッシング……。早い話がデータ入稿で本を作ること)に移行する時には、非常に対応が早かった。現在マンガ原稿は、昔ながらの紙にペンで描いた物だけでなく、色々なデータ原稿として集められている。このデータは作家さんによって全て異なっているのだ。どんなデータでも印刷所の統一フォーマットにできるのは、スタジオ小牧くらいではないのかと言われているのは、やはりこの経験が大きいだろう。
もっともそれは、今の話。当時は写植全盛の時代であった。ひとくちに活字と言うが、あの頃ですら、活字を組み本を作っていたのは「暮らしの手帖」だけであった。
写植と言うのは、写真植字の事で、指定された字体を指定された大きさと間隔で一文字づつ原版から選んで印画紙に焼く物である。たとえば、1頁に三段組みの文字を入れた本があると、一段単位で印画紙が印刷所から戻って来て、それを正確に切りそろえて版下と呼ばれる台紙に貼り込んでいくのである。余裕がある時には、赤字を入れて印刷所に戻すと職人さんが直してくれるシステムだが、最後の最後には自分たちで直すしかなかった。
接着には、ペーパーセメントと呼ばれる印画紙専用のゴム糊を使う。ややもすると、この糊が固めになるので、ソルベックスと呼ばれるシンナーのような溶剤を足してよく混ぜながら刷毛で写植の裏に塗るわけである。校正時期の編集部は、ソルベックスの臭いと、青焼き(日光写真と原理は同じで、フィルムを設計図用の青焼きに転写した物)のアンモニアの臭いが充満したものだ。
脱線ついでに書くなら写植貼りは技術系の作業だ。これには得手不得手があり、仕事が早く集中力のある人間が重宝がられた。よくしたもので、アルバイト要員を何人か使っていると、必ず上手な人間が存在した。ひとまずやらせてみると、どうにかなるもので、それからは連度を上げれば一人前になるのだ。写植文字に余白を取りすぎると、図版や枠線に掛かってしまうので、ギリギリに切る塩梅が難しい。手が早く集中力もあるのだが、文字の一部を切り捨ててしまう人間がいつの時代にも存在した。
「指を切ったなら、舐めときゃ直るが、写植切ったら半日の遅れ」と言われるように、切れた文字を特急発注しても数時間から一日の遅れが生じるのだ。人手不足の雑誌の場合、写植の文字を切る現象には本人由来の固有名詞が付けられる。今も伝わる「ソネル」「シオル」という各編集部独自の名称は、そういう人が残した物なのだ(ちなみに、「シオル」とは、写植ギリギリに切ろうとするために、文字の方まで切ってしまうこと)。もっとも、DTPが普通となった今では、ペーパーセメントの存在すら知らない編集部もあるようだ。
どちらにしろ、本文書体の選び方を間違えたばかりに漢字が太く、ひらがなの細い怪しいカラーページが存在する本が誕生したことだけは事実だった。