米ウォール街で急速な地殻変動が起きている。米証券大手ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが銀行持ち株会社に移行することが決まった。モルガンは三菱UFJフィナンシャル・グループの出資も受け入れる。リーマン・ブラザーズの経営破綻、メリルリンチの銀行への売却に続く動きで、米証券大手はすべて、短期間のうちに劇的な経営の変化を迫られた。
米証券会社は、1933年に銀行と証券の業務を分ける法律ができたのを機に発展した。今回の変化は、米資本市場を70年以上担ってきた構造の終わりを意味する。
転換点は75年の株式委託手数料の自由化である。収入源が細り、自らのバランスシートを使う事実上の投資業務に乗り出さざるをえなくなった。今露呈しているのは、そのような収益モデルの限界である。
大手証券は、短期金融市場で資金を調達し、証券化商品などの長期で流動性の低い証券に投じて収益を稼いできた。だがいったん資金の出し手が萎縮すれば、市場から資金が調達できなくなり、瞬く間に資金繰りに窮する。こんなもろさがリーマンの破綻で表面化した。
金融システム全体への危機でもある。米連邦準備理事会(FRB)がゴールドマンとモルガンの銀行持ち株会社への移行を認めたのもこのためだ。市場で資金が取れなくても、両社は銀行と同様の条件で「最後の貸し手」であるFRBから融資を得られる。保険で守られている分資金逃避が起こりにくい、預金という安定した資金調達への道も開く。
両社は新たな収益構造を確立しなければならない。両社は銀行並みの厚い資本を求められる見通しで、限られた資本で大規模な借り入れをして自己資本利益率(ROE)を高めるこれまでの経営は成り立たない。
両社は統合を通じて銀行業務を本格的に展開する公算がある。だが、健全な経営につながるとは限らない。すでに証券と銀行を営むシティグループも、住宅ローン関連の巨額損失で経営基盤が揺らいでいる。今回の措置は金融危機を救うための緊急対応といえる。その先には、大恐慌以来続く規制の抜本的な改革という課題が待ちかまえている。