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社説:麻生・自民新総裁 理念も政策もなき勝利 予算委で審議後に解散を

 自民党の新総裁に22日、麻生太郎氏が選出された。24日、国会での首相指名選挙を経て、麻生新内閣が発足する見通しだ。

 しかし、麻生氏の圧勝に終わった今回の自民党総裁選は、まだ「予選」に過ぎない。麻生氏が「総選挙で民主党に勝って初めて天命を果たしたことになる」と語った通り、「決勝戦」は間もなく行われるはずの衆院選である。衆院選で自民、公明両党が敗北し、民主党を中心とした政権が誕生すれば麻生内閣は極めて短命に終わる。まず、その点を確認しておきたい。

 すべては衆院選のため。2代続きの政権投げ出しとなった福田康夫首相の突然の辞任表明に始まる総裁交代劇の狙いは明白だった。

 内閣支持率低迷が続き、福田氏は自ら衆院を解散して総選挙に臨む自信がなかった。そこで総裁選をにぎやかに実施して国民の関心を自民党に引きつけ、その勢いで総選挙に突入する--。再三指摘してきたように、総裁選はこんな演出を意識したものだった。

 だが、福田氏や自民党が期待したように「わくわくする総裁選」だったろうか。そうは思えない。

 ◇演出効果は疑問

 今回は5人が立候補し、連日のようにテレビに出演して地方遊説も続けたが、テレビの視聴率は必ずしも高くなかったという。関心が高まらなかったのも無理はない。投票結果は麻生氏が351票。予想通りの大勝だった。安倍晋三前首相と福田氏を選んだ時と同様、告示前から多くの議員が「勝ち馬に乗れ」とばかりになだれを打って麻生氏支持に回り、総裁選は消化試合の様相だった。

 一方では告示直前、日本の食糧行政を揺るがす汚染米問題が発覚し、その後、米国発の金融危機が各国経済を直撃した。こんな時にお祭りのような総裁選をしている場合かと疑問に思った人も多かったろう。

 しかも、多くの議員の判断基準は「だれが首相になれば自分が選挙で当選しやすいか」であり、麻生氏の政策に共鳴したのではないと思われる。麻生氏を選んだのは麻生氏が最も人気がありそうだからだろう。「理念も政策もなき勝利」だったのである。

 政策論争が深まらなかったのは当然かもしれない。特に麻生氏の発言は具体性を欠いた。「基礎年金は全額税方式に改め、財源は消費税を10%に引き上げる」が持論だったにもかかわらず、総裁選では「一つのアイデア」と後退し、22日の総裁就任後会見でも、消費税をどうするのか、まだ筋道は明確ではない。

 外交もそうだ。東欧や中央アジア諸国との連携強化を目指す「自由と繁栄の弧」構想を従来打ち出していたのに、「中国やロシアとの対立を深める」との批判を意識してか、総裁選ではほとんど触れなかった。

 総裁選出が確実だから、余計な波風を立てぬよう持論は言わないというのでは本末転倒だ。今後、所信表明演説などでは、この国をどうしたいのか、具体的に語らなければならない。

 舛添要一厚生労働相が突如、後期高齢者医療制度の見直しに言及したのに呼応するかのように、麻生氏も見直しを言い出した。見直しするのに異存はないが、これも衆院選を意識した行き当たりばったりの提案ではないか。22日の会見では説明不足がいけないのか、実際に見直すのかもあいまいだった。見直すなら、早急に具体的なビジョンを示さなければ無責任である。

 今回、中堅議員が派閥の枠を超えて出馬したことは自民党の変化を物語るものではあった。だが、麻生氏が党の要として幹事長に起用したのは、町村派の細田博之氏だった。

 ◇変わらぬ党の体質

 森喜朗元首相をはじめ、最大派閥・町村派の意向を受けたものであろう。繰り広げられているのは旧態依然の派閥重視思考であり、自民党の体質が変わるに変われないということも国民は知っておいていい。

 麻生総裁誕生を受け、自民党や公明党内では、国会召集後、29日に所信表明演説を、10月1~3日に各党代表質問を行った後、3日に衆院を解散し、投開票日を同26日とする日程が取りざたされている。

 早期の解散は、私たちもかねて主張してきたところだ。しかし、この日程は「ご祝儀相場で新内閣の支持率が高い間に」という狙いがあるのは明白だ。多くの与党議員は「麻生氏の失言などあらが目立たないうちに」とも真顔で語る。これまた本末転倒というべき身勝手な対応である。

 補正予算案の成立を最優先させるべきだというのではない。22日も麻生氏は民主党の政策に対し、「財源の裏付けがない」と批判した。ならば、何が衆院選の争点になるのか、有権者の前で整理するためにも、あらかじめ質問や答弁が用意される代表質問ではなく、補正予算案を審議する予算委員会や党首討論の場を通じ、麻生氏と民主党の小沢一郎代表が議論することが必要なのではないか。

 少なくとも代表質問後、1週間程度はそうした質疑の時間に充て、その後、解散する。それが妥当な日程だと考える。

毎日新聞 2008年9月23日 東京朝刊

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