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【解説】基礎からわかる太陽光発電燃料が不要で、二酸化炭素を排出しない太陽光発電が、地球温暖化問題、原油高騰への対応策として注目されている。日本が世界をリードしてきた技術だが、欧州などで急速に普及が進み、ここ数年で国際的な勢力図は様変わりしている。太陽光発電を家庭に導入するとどうなるか、将来性や課題などとともに探った。 シャープの住宅用太陽電池パネル
住宅用の太陽光発電設備は、日本でも普及が進んでいる(三菱電機提供)
Q 使えば得か 電気代、年10万円浮くシャープによると、一般家庭1世帯の消費電力量は平均で年間5500キロ・ワット時、月平均の電気代なら1万540円程度だという。4・28キロ・ワットの太陽光発電システムを屋根に設置すれば年4587キロ・ワット時を発電でき、年間に使う電力の8割超は太陽光でまかなえる計算だ。設置費用を除くと年間約10万5500円分の電気代が浮く。 費用回収に25年導入時の費用負担が「お得感」を左右する。どれくらいで元が取れるか試算してみよう。標準的な家庭で3・5キロ・ワットの発電システムを設置するには240万円程度(三菱電機)かかり、電気代が浮いた分で設置費用を回収するには25年近く必要になる計算だ。 1990年代から2004年度までは、日本が世界一の普及率を誇った。日本メーカーの技術水準も向上し、最近のシステム購入価格は94年の3分の1の1キロ・ワットあたり60万円台後半まで下がった。 Q 普及策 国補助金4年ぶり復活へ日本では太陽光発電施設の出荷額の8割が住宅用。普及を後押ししたのが1994~2005年度に行った国の補助金制度だ。当初は1キロ・ワットあたり90万円。国は12年間で総額1322億円を補助してきた。 1994年当時はほぼゼロだった住宅用の累積導入量は、2006年に1374メガ・ワットと原子力発電所1・4基分まで増えた。補助金の申請状況などから、累計で約40万世帯に太陽光発電システムが設置されたと想定されている。 普及が進んだと言っても全世帯の0・8%。国は20年に320万世帯まで普及させる目標を示している。経済産業省は09年度から、地球温暖化防止の観点から家庭用の太陽光発電システムの購入補助を4年ぶりに復活させる。補助額は1キロ・ワットあたり10万円程度になりそうだ。 3・5キロ・ワットの発電システム(240万円)の設置なら35万円の補助金がつき、205万円程度で済み、初期費用の回収期間は20年程度まで短くなる。現在のように電力料金の値上げ傾向が今後も続けば、十数年で初期コストを回収できる可能性もある。 自治体の取り組みも拡大自治体の取り組みも広がっている。財団法人「新エネルギー財団」によると、08年度に住宅用システムの設置費用を補助したり、融資したりする自治体は42都道府県に311ある。東京都では14市区で補助や融資制度があり、墨田区では一戸建て住宅に対して最高50万円を補助している。1キロ・ワットあたりでは5万円前後補助する市区が多い。 海外では、住宅用よりも、広い敷地に太陽光パネルを敷き詰める大規模な商業用の設置が主流になってきている。投資ファンドが、太陽光発電所をつくり、発電で得た利益を投資者に配分するというビジネスも欧州などで生まれている。 Q 仕組み 半導体に日光→電流が派生日本で初めて太陽光発電システムが設置されたのは1958年。東北電力の信夫山無線中継所に設置された。76年にはシャープが世界で初めて太陽電池付きの電卓を発売した。電卓は消費電力が少なくて済むので実用化が早かったが、住宅用が発売されたのは93年のことだ。 現在の太陽光発電パネルはシリコン系が主流となっている。シリコンでできた半導体に光が当たるとエネルギーを持った電子が内部で動き出し、電流が生じるというのが基本原理だ。 原料のシリコン 調達難にシリコン結晶を0・2ミリ程度に薄く切って使う「結晶系」が一般的。だが、最近は、溶かしたシリコンをガラスパネルなどに0・002ミリ程度の薄さで塗布して作る「薄膜系」が注目されている。需要増でシリコン価格も上昇し、大量に調達するのが難しくなっているためだ。 ただ、太陽光のエネルギーをどれだけ効率よく電力に変えられたかを示す発電効率は、結晶系が10%台後半なのに対し、薄膜系は10%未満と低く、効率向上が課題となっている。 Q 世界の導入量は 独、日本抜き首位太陽光発電を巡る世界の勢力図はここ数年で激変した。きっかけはドイツが導入した「フィードイン・タリフ」(固定価格買い取り制度)だ。太陽光で発電された電力を電力会社が高値で買い取ることを保証する制度で、原資は電力会社が通常の電力利用者に月額500円程度を料金に上乗せすることで賄っている。例えば、一般住宅で太陽光で発電した電力を通常の3倍程度の1キロ・ワット時あたり80円前後で買い取っている。 スペインや中東も積極的ドイツは2000年以降にこの制度を導入し、急速に太陽光発電システムの設置が進んだ。累計導入量が05年に1910メガ・ワットに達し、トップの座を日本から奪った。06年には2863メガ・ワットまで伸ばし、日本(1709メガ・ワット)の1・67倍となった。環境意識の高まりからスペインも同様の制度を導入して急速に太陽光が普及し始め、フランスも独自の制度を準備している。 最近は、中東の産油国が積極的に導入を図っているという。原油価格の上昇で膨らんだオイル・マネーを原資に太陽光発電所を建設し、将来のエネルギーを確保する狙いがあるとみられている。 パネル生産競争も激化調査会社の富士経済は、06年に8111億円だった太陽光発電パネルの世界市場は、12年に4兆6751億円と6倍近くに急拡大すると予想している。 太陽光発電パネルの07年の生産量は日本が900メガ・ワット超でトップだったが、中国、ドイツが800メガ・ワット前後で猛追している。メーカー別でも、ドイツで01年に生産を始めたQセルズが389メガ・ワットと躍進、国内トップのシャープ(363メガ・ワット)を抜いて世界一の座についた。中国のサンテック(327メガ・ワット)も01年設立ながら、豊富な投資資金で生産能力を拡大し、世界3位に急浮上している。 火力などより コスト面劣る太陽光による発電コストは、まだ割高だ。設備の耐用年数などから算出した1キロ・ワット時あたりの概算コストは、原子力7円、火力7~12円、水力11円。家庭用の太陽光発電は46円だ。 パネルの製造コストが高いことに加え、パネルから電力を取り出す発電効率が低いことが大きな原因だ。このため、大規模に太陽光パネルを設置する「太陽光発電所」の実現にはハードルが高い。 一方、新エネルギーで期待される風力発電のコストは10円程度と安いものの、年間を通じて十分な風を受けられる場所は限られている。新エネルギーの切り札は、太陽光に頼らざるを得ないのも実情だ。 経済産業省の目標は、05年に比べ、30年に水力発電の設備容量を1・1倍、風力発電を同6倍に増やす。さらに太陽光は同40倍に引き上げ、水力の3分の2程度にしたいとしている。 独立行政法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」の「太陽光発電ロードマップ」では、10年の太陽光の発電コストを1キロ・ワット時あたり23円、20年には14円、30年に7円まで下げ、原子力発電に相当する水準にする目標を定めている。 (経済部・岡田章裕、滝沢康弘、佐々木鮎彦が担当しました。) (2008年9月22日 読売新聞)
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