作家の横顔

昨日、作家の白石昇氏と逢う。
ネットでは何年も交流があったけれど、実際に逢うのはこれが初めてである。
わたしは自信がないから、なかなか人に「逢おう」と言えない。
おなじ理由で「逢おう」と言われたら、だれとでも逢う。
白状すると、氏の印象はよくなかった。
やたらからんでくるおかしな人とでも言おうか。
説教がましい言葉を何度もかけられ非常に不愉快であった。

【具体例】
http://yondance.blog25.fc2.com/blog-entry-1060.html(コメント欄)


土曜日。新宿中央公園白糸の滝前。午後6時。
日時と場所を一方的に指定されたが、これが39歳の作家というものなのかもしれない。
わたしは9分遅刻する。
どこか時間通りに行きたくないという気持があったのだと思う。
携帯に電話して遅刻を詫びようとしたとき、
氏の電話番号を書いた紙を家に置いてきたことに気づく。
無意識が逢いたくないと主張しているのだと苦笑する。

作家の白石昇さんはベンチで携帯片手にだれかと話していた。
世知長けた感じのする話しぶりに住んでいる世界の相違を認識させられる。
悪く言えば、軽薄な業界人ぶった話しかたであった。
まあ、のもう。
電話が終わるのを待ちながら、わたしは紙袋からデンキブランを取り出した。
一升瓶である。少しのんではいるが、それでも1.5リットルはある。
アルコール度数は30。
これだけあればいくらなんでも酒が不足することはあるまい。
たぶん余るだろうから残りは作家に進呈するつもりだった。

白石さんは自分の隣に座るよう、うながした。
わたしは指示を拒みひとつ横のベンチに腰をおろす。おなじベンチには座らなかった。
「このへんコンビニないですかね」
わたしは問うた。
「あっちのほうにありますよ」
「いえね、お酒、氷あったほうがいいと思って」
「自転車で買ってきましょうか」
作家の白石昇さんは自転車でここまで来ている。
いま自転車にはギターがかけられいて、うさんくさい。
「じゃあ、氷お願いします」
白石さんは自転車にまたがると手をさしだす。
「氷代ください」
「氷くらいおごってくださいよ」
「いま本を作っていておカネがないんです」

作家の白石昇先生はかたくなに手をひっこめようとしない。
そのなれた手つきに意地汚いものを感じる。
おごられなれている手であった。他人にものをもらうことを恥じない厚かましい手であった。
「ボク、氷いらないですから」
作家の白石さんはペットボトルを示す。
水道水をペットボトルに詰め凍らせたのを日ごろから持ち歩いているという。
なんだか面倒になり、氷はあきらめることにした。
「貧乏っていやなもんですね」
白石昇が怒るかと思ったら、作家は聞こえなかったかのように流した。

作家はデンキブランを水で薄めるのであわてた。
これは割ってのむ酒ではない。とまれ、乾杯する。
酒好きな人間に悪人はいないと思っている。さあ、のめ白石! 
がんがんすすめる。わたしもどぼどぼのむ。
しばらくして白石昇に同類を感じ取る。
この人は弱いんだ。自分にぜんぜん自信がない。
作家が一気に好きになったのはこのときである。白石昇、いいじゃん。
ネットではうざいけれども、リアルでは好ましい男である。
「毎日なにしてるんですか。朝起きたら本読んで、夜は酒なんですか」
やはりこの男は人をムカムカさせる。
「身辺調査ですか」と逆に問う。
空気の読める作家、白石昇はこのあと一切わたしのことを聞かなかった。
始終、自分のことだけを話しつづけた。
それでよろしい。話せシライシ、酒のめノボルである。

まだ逢って10分も経っていないときに作家の白石昇さんが話したことである。
「このまえ、そこのベンチで断髪式をやったんですよ。
ミクシィで募集したら9人も来ちゃって。
ボク3人くらいしか来ないと思ってたんですけど」
「はあ?」
なんだ、このあまりにもわかりやすいキャラクターは。
そのまま受け取っていいのだろうか。それともなにかのワナなのか。
真剣な顔で「はあ?」と意図をわからないふりをする。
「だからボク、断髪式やったんです。そこのベンチで髪を切ったんですよ。
ミクシィで見学する人を募集したら9人も来ちゃって。
3人くらいで飲み会しようって思ってたら9人も来るんでまいりましたよ」

・ボクは新宿の公園で髪を切るような変わった面白い個性的な男である。
・ボクは友人が多い。友人はファンでもある。ボクが一声かけたら9人も集まる。
作家・白石昇の伝えたいメッセージだと思われる。
要約すると「ボクはすごい人」である。
みなさんはウソかと思われるかもしれないが、作家はただただナチュラ〜ルなのである。
しばらくしておかしなことに気づく。
白石昇さんは年下のわたしに「です・ます調」の丁寧な話しかたをしてくださる。
ところが、どうしてかわたしはタメ口になってしまうのである。
いつもわたしは過剰なほど丁寧な話しかたをする。
飲食店で注文するときでさえ「ですます」だ。
こんなわたしがなぜか年上で作家の白石昇さんには乱暴な口の聞きかたをしてしまう。
氏の持って生まれた人徳であろう。
人の心をなごませる無形だが貴重なものを白石昇という男はそなえている。

「ま、ま、白石先生のんでのんで」
これがあとでとんでもない事件を引き起こすことになるのだが、
わたしは有名作家と酒盃を交わす喜びに浮かれていた。
最初は「白石さん」と呼んでいたが、しだいに「白石先生」に変わった。
活字でニュアンスを正確に伝えるのは難しいが「白石せんせ(笑)♪」。
こんな感じだろう。この傑物を「さん」で呼ぶのは失礼だと思うゆえである。
「先生(笑)」と呼ばざるをえない偉大なものを作家はうちに秘めている。

作家の白石昇先生は講談社主催のゼロアカ道場に参加していた。
若手人気評論家の東浩紀が後進を育成する企画である。
みごと勝ち抜いたものには講談社が著書の出版を約束する。
残念ながら作家の白石さんは途中で落選してしまったが裏話がおもしろかった。
聞きたかったことを作家にうかがう。
「あの東浩紀って、白石先生より年下じゃないんですか。
気まずくなかったですか」
わたしなら絶対に年下から教えなど乞わない。
白石さんのふところの深さに感動したのである。

「ボクね(評論家の東を)アズマンって呼んでるんですね。
アズマンって呼ぶと、ものすご〜く嫌そうな顔をしますけど」
(こりゃ落とされるわけだ)
「あのゼロアカを主催しているのは講談社の○○ちゃんでね」
(天下の一流出版社の社員も作家には「ちゃんづけ」で呼ばれてしまう)
「ところで白石先生、そもそも東浩紀の本なんて読んだことあるんですか」
「ゼロアカに入ってから読みましたよ。
アズマン、本読んだからねって、アズマンに言ったら喜んでました」
自分をビッグに思わせようとする作家のいじましさにわたしはひるんだ。
大物ぶろうとするとかえって小物ぶりが露呈してしまう作家の矛盾が切なかった。
わたしとおなじで作家を夢見る白石さんがとてもいとおしかった。
もうじき40になるこの変人を抱きしめたくなった。
見ると、白石さんの目の奥のほうがきらきら光っている。
泣いているわけでも、泣きたいわけでもない。
それなのに、白石昇の目は光を有している。
もしかしたらわたしの目もおなじように光っているのではないかとそのとき思った。

「白石先生、歌っちゃってよ。白石昇、魂の叫びを聞かせてくれよ」
ふたりともすでにぐでんぐでんである。あれだけあった酒が空になっている。
ほいきたと作家はミャンマー製だというギターを持ち出す。
夜の新宿中央公園で作家は歌った。
へたくそなところがよけいに胸を打った。
ハッタリもいいじゃないかと思った。見栄張って生きるのが悪いもんか、とも思った。
作家の白石昇さんは素敵だった。ネットで想像していたよりも何倍もよかった。
人間はよろしい、なんて大げさなことを考えたのを、
デンキブランの酩酊に帰すばかりじゃ人生あまりにも淋しかないか?

ふたりでデンキブランの一升瓶を空けてしまったのである。
白石さんが1杯こぼしたのを計算に入れても、
通常ならとてもふたりの人間がのめる酒量ではない。
この日、夜の新宿中央公園でいったいなにが起こったのだろう。
作家の白石昇は完全に酔っぱらっている。
怪しげなインド人のような日本語で自画自賛を垂れ流す物体に成り下がっている。
あひゃひゃ、白石が壊れたとわたしは愉快だった。

酒が足りぬ。のもうのもう。
作家の白石先生にエビスビールでもおごってやろう。
白石昇の自転車を拝借してコンビニを探しにおもむいた。
ところが、酔っていたのだろう。コンビニどころではない。道に迷ってしまう。
もらった名刺を取り出し携帯に電話したが電子音は自転車のカゴから流れる。
白石昇は携帯電話を身につけておらずカバンに入れているのである。
ようやく白石昇のもとにたどりついたとき作家は熟睡していた。
「白石先生、起きてください。帰りましょうよ。送りますから」
男はぴくりとも動かない。
「おい、自称作家の白石昇! 起きろ、いんちき芸人!」
ひどいことを叫びながら白石昇先生のあたまを両手で揺さぶるとようやく目を覚ます。
「ごめん動けない。ノボルちゃん、しばらくここで寝てる」
一人称が「ノボルちゃん」になってしまった作家の酔態はかわいらしかった。
よし眠れ、よい子のノボルちゃん!
ノボルちゃんは男の子だから大丈夫だろう。
深く考えることもなくわたしはその場をあとにした。
このときのことをどう書いても言い訳になってしまう。
白石さんが起きるまでそばについているべきだったのだろう。
なんとか住所を聞き出し家まで送る責任がわたしにはあったと思う。
どうしてそうしなかったのか。酔っていて覚えていないのである。
なにしろデンキブランの一升瓶が空になっている。
なぜそこまでのんだのか。のみたかったからである。のまなきゃいられないからである。
帰途、何度か白石先生の携帯に電話をしたが作家は一度も出なかった。

9月21日早朝。事件発生。作家の白石昇氏、盗難の被害に遭う。
自転車のカゴに入れておいたトートバッグをなにものかに持ち去られる。
被害品目は――。

・キャッシュカード三枚以上。
・パスポート。
・献血カード。
・携帯電話。
・自転車のライト。
・デジタルカメラ。
・図書館から借りた本。


以上はブログ「白石昇日刊藝道馬鹿一代」より転載。
白石昇氏は警察に被害届を提出。犯人は逃走中。盗難物品はいまだ見つかっていない。

COMMENT

いやはや URL @
09/22 12:54
Yonda?さんの疑惑と容疑について. comment
白石氏のブログに以下のような指摘がございますが。
>>
白石氏のトートバッグがカゴに入った自転車を、
最後に触っているのはYonda?氏なんですよね。

以下の??のコメントに矛盾があることに気づきました。

?
>携帯に電話して遅刻を詫びようとしたとき、
>氏の電話番号を書いた紙を家に置いてきたことに気づく。

?
>白石昇の自転車を拝借してコンビニを探しにおもむいた。
>ところが、酔っていたのだろう。コンビニどころではない。道に迷ってしまう。
>携帯に電話したが電子音は自転車のカゴから流れる。
>白石昇は携帯電話を身につけておらずカバンに入れているのである。

?の時点では、白石氏の電話番号メモは、家に忘れていたと主張してるのに、
?の時点では、白石氏のケータイに自分は電話したと主張している。

Yonda?氏は、自転車カゴにあったトートバッグの真実の行方を知っていて、
何らかの事情でそれを隠している可能性があります。
- URL @
09/22 22:10
管理人のみ閲覧できます. このコメントは管理人のみ閲覧できます
Yonda? URL @
09/23 02:20
粘着くんよ. 

きみもしつこいねえ。

対面直後、作家の白石さんから名刺をもらったのですよ。
   URL @
09/23 07:54
 . 
Yonda?くんは、そんな子ではありませんよ。
(削除するときは、このコメントもまとめて削除してくださってかまいません。煽るようなのは不本意なので無記名です)








 

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