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貧困ビジネスで稼ぐ連中!(2)/城 繁幸(joe's Labo代表取締役)

2008年9月22日 VOICE

セーフティネットは対症療法だ

 悲しいことに、こういった格差支持・利用者たちに乗せられてしまっている若者は少なくない。『文藝春秋』8月号「貧困大国ニッポン―ホワイトカラーも没落する」(湯浅誠氏)はその典型だ。湯浅氏は、貧困サポートで10年を超える実績をもつ一流の現場主義者ではあるが、やはり既存の価値観にとらわれてしまっている。「正社員と非正規に対立はない」という論法は、既得権側が常用する典型的ロジックにすぎない。
 
 フォローしておくが、筆者はけっしてセーフティネットの強化自体を否定するわけではない。企業がそれを保証できなくなった以上、行政による整備は必須だろう。だがそれは格差問題の本質ではなく、結果であり、セーフティネットとはあくまで対症療法にすぎない。格差問題の本丸とはそれを生み出す構造そのものであり、そこにメスを入れないかぎり、けっして希望は生まれないだろう。フランス革命もロシア革命も、きっかけは日々のパンだったかもしれない。だが、理念はもっと高みに据えられていたはずだ。雇用に関する規制の存在しない米国なら、格差問題はセーフティネットを論じれば足りるだろう。だが日本の場合、その前段階であり、並行して構造改革も語らねばならないのだ。
 
 結局のところ、唯一神との契約も市民革命も経ていない日本は、利益団体同士の利害調整社会なのだろう。だからつねに総論賛成だが各論反対、いつまでたっても改革は進まないというわけだ。現在の非正規雇用労働者の悲惨さは、与党=経団連、民主党=連合という代表者がテーブルに着くなかで、誰も彼らを代表する人間がいないという点に尽きるように思う。
 
 これは政治全般についてもいえることだ。1990年代を通じて、つねに「景気対策」の名の下に問題解決は先送りされ、国債を通じたバラマキが行なわれてきた。80年代には黒字だった財政は一気に悪化し、2007年時点では長期債務残高GDP比率は160%を超えてしまった。驚いたことに、この期間を通じて、年金問題も少子化問題も公務員改革も、ほとんど手を付けられることはなかった。このバラマキで日本が良くなったと感じる若者がはたして何人いるだろうか?
 
 もちろん、これは投票という権利を行使せず、上に任せっきりにしてきた若年層自身にも責任がある。そこでいまはまず、若年層の意識を高めることが先決だと考え、筆者はターゲット世代に届くかたちで普段は論を書くようにしている。狙いは、対立軸は左右でも正社員と非正規のあいだでもなく、世代間にこそ横たわっているという事実を教えることだ。
 
 じつは、同じ氷河期世代であっても、正社員と非正規雇用側の連携は可能だと感じている。どちらも割を食っている事実は変わらず、既得権を打ち崩す人材流動化によってメリットを得られるからだ。

民主党は前原視点を生かせ

 本論中、いくつかの文章に批判的なかたちで言及したが、1つだけ注目すべき論についても取り上げておきたい。『暴走する資本主義』(R・ライシュ著、東洋経済新報社)だ。著者はクリントン政権の労働長官を務めた人物で、オバマ陣営のスタッフも務める。おそらくオバマが大統領になった暁には、何らかのかたちで政権入りするであろうと予想される民主党陣営の一員だ。その彼が、グローバリゼーションによって拡大する格差問題について、非常に優れた論考を展開するのが本書である。とくに注目したい点は、ライシュ自身が民主党政治家について、時に辛辣な評価を下している点だ。
 
 超資本主義への処方箋として、まず人々に注意を促すべきは、超資本主義による社会的な負の影響について、企業や経営者を非難する政治家や活動家に用心せよということである。
 現在の諸問題は、資本主義がグローバリゼーションとIT化により“超資本主義”として暴走した結果であるとする。そして、それは従来の枠組みには当てはまらない新たな問題であり、一部の企業エゴや資本家のせいにして済む問題ではないと断言する。新興国から輸出された安い製品を買うのも、企業にさらなる効率化を迫るのも、われわれ自身の社会なのだ。まずはこの事実に向き合うことから、対策への第一歩はスタートするはずだ。著者の鋭い洞察に比べ、わが国の格差に群がる有象無象はなんと志の低いことか。
 
 最後に、筆者が個人的に期待している存在について述べよう。まずは民主党・前原誠司前代表だ。前原氏は代表となるや、まず連合と一定の距離をとる方針を打ち出した。労組依存体質のままでは一定の票は確保できても、真の改革は遂行できないと判断したためだ。この判断はきわめて正しい。2005年衆院選で民主が大敗したのは小泉劇場のせいでもなんでもなく、単純に民主側の自滅である。自治労をはじめとする既得権層に足を引っ張られた結果、郵政民営化、公務員改革などでろくな政策提案ができなかったため、改革を願う若年層にそっぽを向かれただけの話だ。民主がまともな政権政党に生まれ変われるかどうかは、前原視点を生かせるかどうかに懸かっている。
 
 そして、もう1つの存在が共産党だ。今回の文中、あえて共産党には触れなかった。評価しているわけではなく、彼らのいっていることは社民党と同レベル、あくまで既存の価値観からしか物事を見ようとはしていない。ただ、彼らにはしがらみが少ない。いくら中高年正社員の機嫌をとったところで、普通の中産階級は共産党になど投票しないことは明らかだ。ならば民主・社民に代わって、新たな局面に対応した政策転換を打ち出すべきだろう。「反連合、人材流動化推進!」とマニフェストに掲げることで、1000万の非正規雇用層を取り込める可能性もあるのだ。おそらく反対するであろう高齢共産党員など、これを機会に切り捨てればいい(どうせ、ほっておいても今後は減る一方だ)。
 
 筆者が共産党の路線転換に期待するのは、もう1つ理由がある。落ちぶれたりとはいえ、共産党が従来の経営者―労働者という対立軸を捨て、若年層・非正規雇用労働者―連合という対立軸にシフトすれば、日本国内の政治状況に大地殻変動を起こすことは間違いない。従来の左右対立軸の幻想から、いやでも国民は目を覚ますはずだ。メディア(これ自体、規制に守られた既得権勢力である)ももう無視できなくなる。べつに単独与党をめざせとはいわないが、このままジリ貧になるか、もう一度歴史を動かすのか。いまが決断のときだろう。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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