民主党が臨時党大会を開き、小沢一郎代表の三選を正式に承認した。菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長、直嶋正行政調会長らの続投も決まり、三期目がスタートした。
小沢代表は所信表明演説で次期衆院選について「この一戦に政治生命を懸ける。今こそ日本を変える時だ。新しい政権をつくって初めて可能になる」と述べ、政権交代実現に不退転の決意を表明した。
あらためて政権構想の概要も示した。生活の「下支え」を目指す姿勢を強く打ち出し、年金や医療などの社会保障や子育て、雇用など九分野で新たな仕組みづくりに取り組むと強調。来年度予算に盛り込むものから二年後、四年後まで政策の優先順位をつけるとし、実現時期も明示する方針を示した。
昨夏の参院選で勝利した民主党は、他の野党と協力して新テロ対策特別措置法案、税制改正法案など重要法案を参院で否決し、与党は衆院再議決で対抗した。日銀人事でも不同意を繰り返し、政権運営に窮した福田康夫首相は安倍晋三前首相に続き退陣を表明した。何が何でも解散・総選挙に追い込む民主党の戦略と映った。
次期衆院選で与党が過半数を維持したとしても衆院再議決に必要な三分の二以上の議席獲得は難しく、政局は今後も混迷が予想される。小沢代表の狙い通り、民主党が政権を担う状況も現実味を増している。有権者としては、痛みの部分も含め、政策を詳しく検証したいところだ。しかし、政権構想の概要でも耳ざわりのよい政策が強調されている印象がぬぐえない。
ポイントは財源だろう。年金一元化や月額二万六千円の「子ども手当」創設、農家の戸別所得補償制度など政策は幅広い。小沢代表は「財政構造を大転換しなければならない」とした上で、一般会計と特別会計を合わせた国の純支出の一割に当たる二十二兆円を財源に充てるとした。言葉通り大転換であり、「もう少し詰めないと納得してもらえない」との声が早くも党内から出ている。
党内で議論のある安全保障政策も踏み込み不足だ。懸念される景気への対策や世界的金融混乱に対する日本としての今後の対応策も重要になる。
民主党は今回の党大会で戦う姿勢を一層鮮明にした。政策の具体案を盛り込んだ衆院選マニフェスト(政権公約)は月内に取りまとめるとしている。政権を担うに足る実力が本当にあることを示すために、菅代表代行がいう「現実感ある」公約を提示しなければならない。
防衛省が、弾道ミサイルを地上から迎撃する航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の発射試験を米国内の米軍射場で行い、標的の模擬ミサイル迎撃に成功した。
PAC3は日本が整備を進めるミサイル防衛(MD)の一方の要で、海自イージス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)との二段構えで弾道ミサイルを迎撃する。政府は米軍の試験実績などを踏まえ、既に昨年三月から首都圏を中心にPAC3の配備を進めている。
海自は昨年十二月にハワイ沖でイージス艦からの発射実験に成功した。今回の成功で、防衛省はシステムの完成度や信頼性を誇示したいところだろう。PAC3はドイツなどにも配備されているが、米軍以外で独自に試射を行ったのは初めてで、日本の主体的運用をアピールする狙いもあるようだ。
しかし、日本が弾道ミサイル発射の兆候をつかむには米国の情報に依存せざるを得ず、主体的運用と裏腹に日米の軍事的一体化が進む懸念がある。米国に向かうミサイルを日本が迎撃するのかという問題も大きい。憲法解釈で禁じてきた集団的自衛権の行使に絡むこれらの懸念については議論が棚上げ状態だ。安倍晋三前首相が設けた有識者会議が今年六月、集団的自衛権行使容認に向け憲法解釈の変更を求めたものの、福田康夫首相は解釈変更を否定している。
北朝鮮からのミサイルを想定すれば対応時間が少なく、実際問題として迎撃が現場指揮官の判断で行われるのでは、という文民統制上の懸念もある。
PAC3の全国配備などにより、二〇一〇年度には日本のMD体制がほぼ整う。安全保障上の根本問題の議論を置き去りにしたまま、なし崩し的にMDの運用を拡大してはなるまい。
(2008年9月22日掲載)