全国のハンセン病療養所内にあった監禁所の廃止に伴い、新たな治安維持施設として1953年、法務省がハンセン病患者専用の刑務所として開設した。定員70人で、50年代は最大で22人を収容。殺人罪に問われ、偏見のため、正当な裁判の手続きが得られなかった「藤本事件」の死刑囚も収容されていた。96年のらい予防法の廃止に伴い、翌年、閉鎖された。
(2008年9月18日掲載)
全国唯一のハンセン病患者専用の刑務所だった熊本県合志市の「旧熊本刑務所菊池医療刑務支所」跡地が、ハンセン病の歴史を伝える場として保存される見通しとなった。財務省九州財務局(熊本市)が公売のための一般競争入札を公示していたが、隣接する国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園」の入所者自治会が「差別の歴史を伝える場所」として保存を要請。厚生労働省からも中止を求められ、財務省が受け入れた。
同省によると、入札公示後に物件の売却を中止するのは極めて異例という。
九州財務局によると、売却を予定したのは同跡地を含む国有地約5万7700平方メートル。跡地は現在、大半が更地だが、旧庁舎や旧職員宿舎など一部の建物が残っている。財務局は4日、一般競争入札の実施を公示した。
これに対し、恵楓園の入所者自治会は「国の隔離政策の象徴として保存すべきだ」と、財務局に中止を申し入れたほか、全国ハンセン病療養所入所者協議会(東京)も厚労省と法務省に入札中止を要請、厚労省と財務省が協議して17日、入札の中止を決めた。
厚労省は「跡地が売却対象とは知らなかった。歴史的建造物として保存する措置が必要」(疾病対策課)と説明。今秋にも全国のハンセン病関連施設の保存、復元を検討する委員会を発足させ、具体的な協議に入る予定という。
恵楓園入所者自治会の志村康副会長(75)は「罪の確定していない患者や軽犯罪者も収容された場所。人権侵害の歴史を伝える施設として保存することはとても意義がある」と喜んでいる。