現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

小沢民主党―説得力ある行程表を示せ

 民主党はきのうの党大会で、小沢一郎代表の3選を正式承認した。自民党では麻生太郎氏が新総裁に選出される見通しだ。

 「麻生VS.小沢」の政治決戦がいよいよ幕を開ける。

 党大会の演説で、小沢氏は「変化」と「覚悟」を強調した。「いまこそ日本を変える時だ」「この一戦に、新しい国民生活をつくることに、私の政治生活のすべてをつぎ込む」

 2大政党が政権選択を問う小選挙区制の選挙では、党首のイメージや発信力が勝敗を左右する。その意味で、小沢氏がこの演説を国民に向けての所信表明と位置づけて臨んだのは当然のことだろう。

 膨大な税金のむだ遣いを生んできた自公政権の財政構造、統治機構を根本から転換し、そこから生み出した財源で国民の生活を守るセーフティーネットを整備していく――。

 小沢氏が発信した基本的なメッセージはこれに尽きるが、注目されるのは、それを実現していくための手順を次のように整理したことである。

 政府の一般会計と特別会計の支出は合計で212兆円にのぼる。その1割にあたる22兆円を段階的に組み替え、民主党の主要政策を実行する財源にあてる。具体的には(1)来年度予算で直ちに実行するもの(2)来年の通常国会で法案を通し、2年以内に実行するもの(3)衆院議員の任期である4年の間に実行するもの、の三つに分類するという。

 どの政策をどこに仕分けるかについては「今月中に総選挙のマニフェストで明らかにしたい」と述べた。

 農家への戸別補償制度など民主党が掲げた政策に対し、与党は15.3兆円もの支出が必要になるのに財源があいまいだと批判している。政権交代の必要性は感じつつも、この点に不安や不満を抱く有権者は少なくないはずだ。

 総選挙のマニフェストで、政策を実現していく順番や財源の手当てを明らかにすれば、確かに民主党のめざす政権像は鮮明になる。要は、与党の攻撃をはね返し、有権者が納得できる行程表を示せるかどうかである。

 大会で気になったのは、来賓としてあいさつした国民新党の綿貫民輔代表が、郵政民営化の見直しをめぐる民主党との合意を自画自賛したことだ。

 選挙で勝つには他党との協力が大事というのは分かる。だが、合意された日本郵政株の売却凍結や4分社化の見直しは、民主党が主張する統治機構の抜本改革と矛盾はしないか。選挙目当てのご都合主義と取られないよう、丁寧な説明が必要だろう。

 民主党に求められているのは、政権をとったらどんな政治を、どんな社会を実現するのか、選挙本番に向けて骨太のマニフェストをつくることだ。残された時間はあまりない。

地価下落―利用価値高める政策を

 昨年まで「ミニバブル」ともささやかれた大都市の一部での地価上昇は、短命に終わったようだ。地価は全国的には、再び下落局面へ戻った。

 国土交通省の都道府県地価調査(基準地価=7月1日時点)によると、昨年は10%超の高い伸びだった3大都市圏の商業地は、上昇率が大幅に縮小した。現在は下落へ転じているようだ。全国平均では、商業地が前年に比べてマイナス0.8%となり、2年ぶりに下落した。住宅地はマイナス1.2%へ下落幅を広げた。

 きっかけは米国のサブプライム問題だ。世界各国で地価が上昇していたのは、世界的なカネ余りで巨額の投資資金が不動産市場に流れこんでいた影響が大きい。ところが、米住宅価格の下落や金融商品の暴落で、不動産へのマネーが一気に収縮し始めた。

 日本での地価下落のショックは、不動産バブルが崩壊中の米欧よりは小さいだろう。それでも衝撃がけっして軽くはないことは、最近の不動産会社の相次ぐ倒産にも表れている。

 80年代後半、投機がさらなる投機を呼んで異常な不動産バブルが起きた。そんな「土地神話」はとうに卒業したはずだが、まだどこかに「地価は上昇するもの」という気持ちが残っているのではないか。企業の不動産取引も、個人の住宅購入も、さらには政府の土地政策も、それを前提としているようにみえる。銀行の融資も、担保としての土地の比重がきわめて重い。

 そうしたシステムやものの考え方を、日本社会全体で見つめ直すべき時かもしれない。

 金融危機にあえぐ米国と、その影響を受けて揺れる世界の経済。現状をみれば、日本経済に当分は逆風が吹き続けるだろう。当然、地価にも下落圧力が続くはずだ。長期的にも、人口減少社会へと突入した日本は、土地余りの時代を迎える可能性が高い。

 3大都市圏の地価がここ数年上昇したといっても、住宅地はようやくバブル直前の80年代半ばの水準に戻っただけ。商業地に至っては、第2次石油危機前の70年代後半のレベルにある。経済成長にともなって地価も上がる、というこれまでの常識が、もはや通用していないことを示している。

 ならば、手ごろになっていく地価を生かして「土地の利用価値を高める政策」を思い描いてみてはどうだろう。

 日本は、高齢者にやさしく美しいまちづくり、豊かな住空間づくりで、欧州にまだまだ見劣りする。国際競争力のあるビジネス都市の整備では、アジア各国に追い上げられている。強い農業を育てるには耕作放棄地を減らす農地政策が必要だ。

 安い地価を土地利用の課題を解決するチャンスに変える。そんな発想をしてみたい。

PR情報