介護保険制度に基づき、来年度の介護報酬改定の在り方などを協議する厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会の議論が本格的に始まった。来年一月をめどに、改定の考え方などを厚労相に答申する。
介護事業者に支払われる介護報酬は三年に一回改定され、過去二回は連続して引き下げられた。その影響で事業者の収益悪化が目立ち、現場で働く人たちの待遇も悪くなって人手不足が加速するなど問題が表面化している。
舛添要一厚労相は今春、介護職の待遇改善のために報酬引き上げの意向を表明している。分科会では基本的にこの方針に沿った議論を進めることになるようだが、介護現場の窮状を考えると妥当な流れといえよう。
介護職の平均的な収入は全労働者平均の六割程度といわれる。お年寄りの入浴介助や夜勤など肉体的にきつい仕事も多い。労働実態に見合わない待遇に嫌気が差して転職したり、福祉系の学校を出ても介護職を選ばない若者が増えている。
政府はインドネシアからの介護職候補の受け入れを始めるなど、人材不足は深刻化している。外国人を安い労働力とみなすのではなく、日本人を含めた老いの支え手の確保、介護の質向上のために介護労働者の待遇改善は待ったなしの状況だ。
介護保険は四十歳以上の加入者からの保険料、税金、利用者の一部負担金などで賄う支え合いの制度である。過去二回の報酬引き下げは、利用者の伸びが予想をはるかに上回ったため、報酬総額を抑制するための措置だった。
今回、報酬を引き上げるとすれば、財源をどうするかが最大の課題となる。まず公費負担増や保険料アップが考えられる。だが、財政難の中で税金のさらなる投入は容易ではなかろう。
保険料については、例えば六十五歳以上の場合、制度開始の二〇〇〇年度の全国平均で月額二千九百十一円だったものが、〇六年度は四千九十円と改定のたびに上昇している。利用者の増加が原因だ。
別の方策として四十歳以上になっている保険料の徴収対象年齢を引き下げる案や、利用料の一律一割負担を所得に応じて支払う方式の導入なども検討に値しよう。
選択肢はいろいろあるが、それぞれのメリット、デメリットを国民にしっかり示しながら、財源論議を進める必要がある。少子高齢化が進む中で、介護だけでなく医療、年金という社会保障全般で財源問題は重要なテーマだ。各分野の整合性を図る視点も不可欠だろう。
かつて赤ちゃんに深刻な薬害を引き起こして販売が中止された「サリドマイド」が、血液のがんの一種である多発性骨髄腫の治療薬として年内にも販売が再開される可能性が出てきた。サリドマイドのほかに治療法のない多発性骨髄腫患者にとっては朗報であろう。
サリドマイドは睡眠薬や胃腸薬として使われたが、服用した妊婦から赤ちゃんの被害が多発し、国内では一九六二年に販売中止となった。近年、多発性骨髄腫などへの治療効果が認められるようになり、米国などで承認されている。日本では八月末に厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会が、藤本製薬(大阪府)による製造販売承認申請に対し、薬害再発防止のための安全管理策の実施などを条件に「承認して差し支えない」との結論をまとめた。
承認条件とされた安全管理策については、厚労省の有識者検討会が先ごろ妥当だと認めた。承認へ向け、大きく前進した。
安全管理策は、サリドマイドを使用する医師、薬剤師、患者を登録制とするほか、不要になった薬はすべて回収するとしている。サリドマイドの厳格な管理システムの構築を目指す。さらに、安全管理策がきちんと運用されているかどうかをチェックするため、患者団体、被害者団体の代表者のほか国の担当者も加わる第三者機関を設けるとした。運営費用の一部は国が負担する。
再販売に当たっては、サリドマイドが薬害を招いたことを忘れるわけにはいかない。妊婦や妊娠の可能性のある人が服用すれば再び悲劇を引き起こす可能性がある。何より重要なのは、安全管理システムによってサリドマイドと胎児の接触を防止することだ。安全確保に漏れがないよう検討してもらいたい。
(2008年9月21日掲載)