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深夜までネオンが輝く、ふじみ野市の東武東上線上福岡駅周辺(写真は本文とは関係ありません) |
酒に酔って男性に軽傷を負わせたとして傷害容疑で書類送検されたふじみ野市の吉野英明教育長(64)が十六日辞職した。事件は深夜徘徊(はいかい)する少女らを注意したことが発端。吉野教育長は剣道の上位有段者で、周囲からも正義感の強い熱血漢として慕われた人物。事件発覚後、市には「教育長を辞めさせないで」といった内容の電話などが県内外から約十件寄せられた。悪いことをきちんと注意できる大人が少なくなった昨今、市の教育関係者からは教育長の辞職が、現場の指導力低下に結び付くことを懸念する声も上がっている。
東入間署の調べでは、吉野教育長は七月十九日午前一時ごろ、ふじみ野市上福岡のカラオケ店内で、市内在住の自動車修理工男性(20)の顔を平手で殴り、約一週間の擦過傷を負わせた疑い。教育長は当時、酒を飲んでいたという。男性は同日、同署に被害届を提出。同署は十一日、傷害容疑でさいたま地検川越支部に書類送検した。教育長と男性の間では二日に示談が成立している。
▽深夜徘徊(はいかい)する少女らへの注意が発端
市の関係者などによると、吉野教育長は七月十九日、市内で地元医師会と市幹部との飲み会に出席。一人で帰宅途中にカラオケ店前で深夜徘徊している二、三人の少女たちを発見した。
夏休み前の終業式当日で、遅い時間だったことなどから、早く帰るよう促したところ、少女たちは悪態をつきながら店内へ逃げ込んだ。追い掛けてそのまま店内に入ったが、少女たちの姿が見えなくなったため、ソファに座って待っていた。
そこへ今回の被害者を含む計三人の男性が現れた。
吉野教育長は男性ら三人を見て同店の店員だと思い込み、「こんな遅くに店に子どもを入れて、酒を飲ませるな」などと注意したところ、口論となった。この時、男性が「オヤジ帰んなよ」などと言って顔を近づけてきたため、教育長は右手で男性の左ほおを払いのけたという。
▽周囲から厚い信頼
吉野教育長は一九六九年に警視庁を退職後、福岡町(現ふじみ野市)に入庁。上福岡市教育委員会総務課長などを歴任して同市を退職し、二〇〇〇年に同市教育長、〇五年十月からふじみ野市教育長に就任した。学校長は経験していないものの、歯に衣(きぬ)着せぬ物言いなどで周囲から一目置かれていた存在で、面倒見がよく、職員などからも人望が厚かったという。同市の幹部は「普通ならなかなか若者には怖くて注意もできないが、駄目なものは駄目ときちんと指摘する人。泥酔するような人ではないし、教育長の行為は理解できる」と話した。
▽指導力の低下
現場となった東武東上線上福岡駅周辺は、深夜になっても未成年がたむろしていることが多く、市民がパトロールをすることもある。同市内で商店を経営する女性(70)は「今は見ても見ぬふりをする大人が多いし、子どもを教育する家庭がなっていない。暴力を振るったことはよくないが、正義感のある大人は必要だし、人任せではいい教育はできない」と話した。
同市の教育関係者は、事件による教育力の低下を指摘した。「ちょっと触っても暴力と騒がれる時代で、三十、四十代の若い先生方が(今回の件を聞いて)及び腰や事なかれになってしまったらどうなるか。駄目なことは駄目と注意できる人がいなくなると、いい子どもたちが育たなくなってしまう」
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