「毎日のこと」こそ大切に
アレルギーに悩み、肌に優しい下着を求めて
- 2008年9月21日(日)
体が変われば、心も変わる
それから10年あまり。「40歳の手前って、女性が不安に陥りやすい時期なのかもしれません」と語る現在の宇江佐さんに、当時の不安定さはみじんも見られない。宇江佐さんが、再び自信と活力を取り戻した理由は何なのだろうか。
宇江佐さんは言う。
「生活を根本から立て直そうと思いました。食生活から少しずつ変えたんです」
料理は苦手だったが、体のため、肌のため、と思うと、少しずつだが、自分で丁寧に食事を作るようになった。いちばん変わったのは、日常的に使う食材のレベルを上げ、料理の基本の部分に手間をかけるようになったこと。しょうゆなどの基礎調味料を有機栽培の素材で作られた高品質のものに変え、だしも一手間かけて自分で取るようになった。
自分は体を悪くしたから肌が壊れ、心も弱くなった。ならば、逆に体を強くすれば、肌も心も強くなるはず。そのために「毎日のことを大切にしよう」「日々の暮らしを丁寧にしよう」と思った。
食生活を変えたとはいえ、アレルギーが急に治ったわけではない。症状は定期的に現れ、特に春と秋は肌のかゆみに悩まされたが、初期のひどい症状は次第に影を潜めていった。
もうひとつ、落ち込んだ自分を奮い立たせてくれたのは、目標ができたことだ。
アレルギーに悩まされるようになって以来、宇江佐さんの下着探しの日々はずっと続いた。仕事で海外へロケに行くと、アレルギーでも着られる下着を探し回った。だが、着心地とデザインの両面で優れたものがどうしても見つからない。
そんなとき、友人の一言が宇江佐さんを動かした。「20年ぶりに会った友人が、何気なく『作ればいいじゃない』って言ったんです。無いのなら、自分で作ればいいと言われて、『あ、そうか』と、ふに落ちちゃった。世の中には同じようにアレルギーで困っている人がいる。その人たちのためにもやらなきゃ、という使命感が生まれたことと、目標ができたおかげで、気持ちが埋没しなくなりました」。
10年やってきて、信頼に変わった
とは言え、素人がそう簡単に下着ブランドを立ち上げられるはずもない。
世の中には下着作りのプロがいる。彼らに相談すれば、道は開けるはず─。そう意気込んでみたものの、実際はそのプロから「できない」「分からない」「難しい」という言葉を浴びせられることになった。
通常の製品は製造工程に薬品処理が組み込まれている。縮まず、平らで、縫製しやすい生地にするためだ。しわができにくいので、消費者にとっても取り扱いが楽になる。だが、宇江佐さんは肌のことを最優先に考え、薬品は使わないと決めていた。当然、製造工程は極端に難しくなる。しかも、製造量はごくわずか。こんな割に合わない仕事を進んで引き受けてくれる工場が簡単に見つかるわけはなかった。
2003年に何とかリエッセンスを立ち上げたものの、やっと見つけたブラジャー工場は事情で継続できなくなり、次に見つけたところは1年後につぶれ、そのまた次に頼み込んだ工場も半年でつぶれ…。現在も、ブラジャーは製造休止中で、販売できるアイテムはショーツとキャミソールに限定されている。
順風満帆とは決して言えないが、宇江佐さんはへこたれない。リピーターも少しずつ増えてきた。彼女たちが寄せてくれるさまざまな生の声が、宇江佐さんの励みになっている。
今は、これまでの定番商品に加え、新たな下着のシリーズを開発中。新シリーズは「美肌をつくる」という機能性が特徴だ。
「アレルギーになって思ったことですが、下着は24時間、一生、肌に触れるもの。食事と同じように毎日のことですから、もっと大切にすべきなんですね。その思いで石にかじりついて10年やってきて、ようやくそれが、ある種の信頼に変わってきました。これは、タレント時代にも感じられなかったありがたさ、うれしさなんです」
宇江佐さんは、今、かつてのタレント時代よりずっと大きな幸せを感じている。
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