NEWSゆう 特集 2007/06/14(木)放送

シリーズ『ウラドリ』 カセットコンロに潜む危険
取材班が独自の視点で真相に迫る、シリーズ「ウラドリ」。今回は、カセットコンロを取り上げます。視聴者の方からの「事故の危険性がある」との投書をきっかけに、取材を進めました。
 
■置いたテーブルに焦げ目



4月、1通の手紙が、数枚の写真と共に朝日放送に届いた。
『カセットコンロを使用しているうちに、テーブルが焦げてしまいました』
『重大事故にならないうちに、調査をお願いします』



カセットコンロでテーブルが焦げる?本当なら、大きな火事にも繋がりかねない。
取材班は、早速、手紙の送り主のもとへと向かった。
【割烹料理店経営 山下隆志さん】
「こういのは故意につけようと思っても、なかなかできるものじゃないですから」
確かに焦げている。しかも、1台だけではない。店のテーブルのほとんどに、丸く焦げ跡がついている状態だ。




こちらの店では、去年の夏に店舗のリニューアルに合わせて、店で使っていたカセットコンロを全部買い換えた。ところが・・・。

『コンロの下から、煙が出てます!』

【割烹料理店経営 山下隆志さん】
「頭パニックになりましたけどね。改装して間際だったもんで・・・」
「1台だけだったら、お客さんが強火でずっと炊いたのが原因かと、諦めもつくんですけれども、13台のテーブルのうち9台ともなると、カセットコンロに欠陥があるんじゃないかと思うんです」



問題のコンロは、あるメーカーが2000年に開発した内炎式と呼ばれるカセットコンロだった。

この内炎式のコンロは、従来、外側を向いていた炎を、内側に渦巻状に噴出させることで熱効率を上げ、少ないガスで熱を伝えることができるのが売りだ。省エネブームも手伝って、順調に売り上げを伸ばしている。



しかし・・・。
【割烹料理店経営 山下隆志さん】
「放っておいたら、火災の原因になると思う。多分、うちだけじゃないはず・・・」

「コンロそのものに問題がある」と考えた山下さんは、製造元のメーカーにテーブルの賠償などを求めたが、回答は『応じられない』というものだった。



メーカー側は「他に事故の報告がない」と言うが、本当にないのか?鍋料理を扱っている飲食店に問い合わせてみた。

「普通のやつです」
「うちは使ってませんけど・・・」

ようやく当該機種を使っている店に行き当たったが・・・。
記者「テーブルが焦げたりしたことは?」
店員「そういうのはないです」
記者「一度もないですか?」
店員「はい」



結局、他の事故例を見つけることはできなかったが、取材班は簡単な実験を試みることにした。使うのは、内炎式のコンロと、無作為に選んだ従来式のコンロ。どちらも新品。2つのコンロで、底面の温度を比較してみた。

20分後・・・。従来式は76度だったが、内炎式はなんと260度にも達した。
実験の結果、内炎式コンロの底面は、従来のものよりも遥かに高温に達するということがわかった。



コンロに構造的な問題はないのか?製造元のメーカーは、今回の事故をどう見ているのだろうか・・・?

【メーカー担当者は・・・】
「通常の使い方でと言うが、通常の使い方でテーブルが焦げることは普通ない」
「過酷テストというものをするが、JIS規格よりも厳しいテストをやっている」
「コンロ底面の温度を上げる要因になったのは、回収した現品を見るとコンロの中の『煮こぼれ』がひどいので、それじゃないかと・・・」



■製造業者「規格に合格している」



メーカー側が自信を持ってこう答えるのには根拠がある。

山下さんの問い合わせを受け、メーカーは外部の調査機関『ガス石油機器PLセンター』に調査を依頼。そして、その結果・・・。

『全て正常』
『安全点検と清掃に十分配慮することをお薦め致します』
【ガス石油機器PLセンター 勝又勇センター長】
「問題の有無を判断する時に一番大事なのは、規格。それで問題ないから合格した」
(Q.構造的な問題があるというわけでは?)
「ないですね」


PLセンターは、「鍋をつついているうちに、食材などがコンロの底に落ち、掃除せずに繰り返し使ううちに焦げついた。その焦げついた所に、エアコンの風などの影響で炎が下を向き、引火した」と結論付けた。コンロの構造そのものに問題はないということだ。

ただ、内炎式コンロが風の影響を受けやすいということは、メーカーもPLセンターも認めている。

【ガス石油機器PLセンター 勝又勇センター長】
「これが今後も出るとなれば、規格は規格であって、事故は防がなきゃいけませんから、事故が続発するようなら、メーカーさんでどんどん改善すると思います」



メーカーとPLセンターが揃って口にする『工業規格』。
しかし、現在のカセットコンロのJIS規格は、98年に改定されて以降、変更されていない。内炎式のコンロが開発されたのは2000年だから、規格に内炎式は想定されていないのではないか?
取材班は、その疑問を投げかけてみた。
【カセットコンロの規格担当者は・・・】
(Q.規格に内炎式は想定されているか?)
「いないですよね。(改定当時に内炎式は)ないから」
(Q.改定が必要という考えは?)
「だけど、簡単にJISは変更できませんもん。そういう問題が起きないように、自分のところで改善していかないといけないということ。今のところはですよ」

内炎式は、JISの想定の範囲外。果たして、それで「規格に合っているから問題ない」と言えるのだろうか?便利なものを求める消費者の声に応じて、メーカーはきょうも新製品を作り続けている・・・。