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【社会】

迷惑餌やりに罰金 全国初 荒川区が条例案

2008年9月20日 07時07分

 東京都荒川区は十九日、動物に餌を与えて周辺住民に迷惑をかける行為を罰則付きで禁止する条例案を区議会に提出する、と発表した。区によると、罰則付きの餌やり禁止条例は全国初。これまでに杉並区なども条例化を検討したが、住民の反対で見送られており、条例の成立には曲折も予想される。

 条例案によると、自分で飼っていない動物に餌を与え、鳴き声やふん害、臭気などで周辺の住民に被害を与えた人に対し、住民の苦情を基に区が立ち入り調査し、是正を勧告する。

 勧告に従わない場合は、是正を命令し、氏名を公表する。

 罰則もあり、加害住民側が立ち入り調査を拒むと十万円以下の罰金、是正命令に従わない場合は五万円の罰金が科される。

 いわゆる「ごみ屋敷」にも、同様の罰則を科す。

 今回の条例案の背景について、区側は「単に餌をやる行為を禁ずるのではなく、周辺住民に迷惑をかける行為の抑止力となれば」と説明している。

 昨年度、動物に関する区への苦情や相談は百八十九件あり、本年度は八月末時点で百七十七件ある。

 その中に「区内の男性が早朝、カラスに餌を与えるため、百羽以上が集まり寝られない」との苦情があり、区職員が男性を訪ねたところ門前払いされたことなどを受け、条例案の検討に入ったという。

 区は二十一日からパブリックコメントを募集し、十一月下旬に始まる議会に提案。可決されれば、来年四月から条例が施行される。

■『心ない行為』に対応

 罰則付きの餌やり禁止条例を制定しようという全国初の試みに、荒川区民からは賛否両論の声があった。

 「罰則は意味がないのでは」。都電荒川線三ノ輪橋停留場近くで帰宅途中の高校三年細田里美さん(18)は、動物好きなこともあり、疑問を呈した。

 「規制の線引きが難しい。私は迷惑を感じないし、寂しい人が動物に餌をやる光景はほほ笑ましい。そこまでやる必要があるでしょうか」

 住宅街でのハトの餌やりなどで実際に迷惑を被っている区民からは好意的な意見も。

 南千住のマンションに住む男性会社員(60)は「いいこと」と大賛成。自転車置き場はいつもハトのふんで汚れているといい、「餌をあげっぱなしの人は迷惑を考えていない。少しはきれいになるのかな」と期待する。

 区が条例制定を検討したのは「心ない一部の行為で我慢の限界を超えている人がいる」(西川太一郎区長)との認識からという。

 カラスに餌をやる男性に困った地元町会の要請があった際、区は警視庁と協議。

 だが、東京都迷惑防止条例などに餌やりの禁止条項はなく、取り締まりの手だてがなかった。

 サルやイノシシなど野生動物への餌やりを禁じる条例はあるが、カラスや猫への罰則を伴う餌やり禁止条例はない。杉並区や北九州市で制定が検討されたが、住民の反対などで実現していない。

 杉並区では二〇〇五年、区の懇談会が「買い主のいない猫への無責任な餌やりを罰則を含めて規制する」ことや、個体識別を容易にするため「飼い猫の登録制」を求めることを盛り込んだ報告書を作成した。しかし、「条例化はむしろ苦情を先鋭化し、住民間の対立をあおる」などと反対意見が相次いだ。

 荒川区は、杉並区の例を考慮し「住民が共同で世話をする『地域猫』などは対象外」と説明。八月から、猫の不妊去勢手術費用の助成をしている。

■条例は時代に逆行

 猫問題に詳しいジャーナリスト香取章子さんの話 ある地域で食べ物を与えるのをやめさせても、食べ物のあるところへ移動するので、問題の解決にはつながらない。千代田区では猫の不妊去勢手術の助成などで、一日二、三件だった苦情件数が昨年は年間九件になり、殺処分数も四分の一、路上死体処理数も半分になった。二十三区中二十区で手術助成が始まるほど対策の有効性が証明されたが、荒川区は助成の効果を確かめておらず、この条例案は時代に逆行している。

■解決へ一つの方法

 ペット問題に詳しい矢花公平弁護士の話 条例案は動物愛護法の動物取扱業者への対応を一般に広げた内容だ。損害を受ける住民の要望が強く、緊急の対策をするには、罰則付きの規制も問題解消への一つの方法だ。ただ、保健所の業務が重すぎて、動物愛護法でも勧告は出ているが措置命令は出ていない。今回の条例案で取り締まりがうまくいくか、抜本的な解決になるかどうか心配だ。

(東京新聞)

 

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