しかし、ものの見方、例えば自然に対する考え方や人間観などは日本と欧米では基本的なところで違っているように見えます。最近は環境問題のせいか、日本の自然観が見直されてきているようです。男と女についても、日本と欧米ではかなり見方が違っています。今回第六話ではこの男女観を取り上げてみました。ご高覧ください。
男と女の物語 （第六話） 日本と欧米の異なる男女観―「対」・「と」の違い
神話や聖書に現れる深層心理
明治の初め日本が開国した頃から、「欧米は進んでいる」「欧米の文化を学べ」という欧米崇拝或いは欧米コンプレックスの風潮が生まれ、大正・昭和の時代へと引き継がれて行った。そして大東亜戦争に敗れることにより占領軍の占領政策ともあいまって、日本の伝統的なものはすべて遅れており、悪いものという考えが日本人の間にしっかりとインプットされるに至った。
しかし欧米の思想が進んでいて正しく、日本のそれが遅れており間違っていると言えようか。欧米の思想は「対立と闘争」であり、その根源には聖書が深くからんでいる。一方、日本古来の思想は神話にも現れているように「和と共生」と言える。
男女の関係も欧米の「男対女」に対し、日本は「男と女」であり、根源的な思想の違いを抜きにして論じることは出来ない。神話と言うものは非科学的でその価値を認められないと、戦後マルクス史観に毒された進歩的文化人等が言い、それが一般にも影響し神話を馬鹿にする風潮があるのは残念な事である。
神話は少なくとも古代の人が物事をどの様に見ていたか、思想や深層心理といった文化の核をなすものを映し出していると考えられる。男女の関係に深く影響のある思想について、欧米と日本でどのように違うのか以下、旧約聖書と神話を見ていくこととする。
旧約聖書に見る男女の関係
ユダヤ教・キリスト教・イスラム教と言う世界三大宗教の共通の聖典が、旧約聖書であることはよく知られている。その旧約聖書の始めに創世記がある。第1章を開くと「はじめに、神は天と地を創造された」と書かれている。天地創造の第1日目に神は「光あれ」と言われ、昼と夜が出来たとある。
第2日から第6日までに神は人間を含めすべてのものを創られ、第7日目は祝福の為休まれたとある。これが現在の一週間の始まりなのであろう。そして第2章において人の始まりが、さらに詳しく 書かれている。「主たる神は、土のちりで人を造り、命の息をその鼻に吹き入れられた。
そこで人は生きたものとなった」さらに「神は人を連れて行きエデンの園に置き、これを耕させ、これを守らせられた。」また神は「人がひとりでいるのは良くない。彼の為にふさわしい助け手を造ろう」と言い、人を深く眠らせ、眠っている間にそのあばら骨の一つをとって、一人の女を造り、人のところへ連れて行ったと書かれている。
現在の西欧文明が、宗教、中でもキリスト教に深く影響を受けていることは否定できない。この旧約聖書に人として出てくるのは男であり、女は男のあばら骨から造られた男の助け手として描かれている。即ち人の主体は男であり、女はあくまでも男の付属物・従属物に過ぎないと言う思想が男女観の深層にあるように思われる。
中世から近代の西欧の歴史を見ると、この時代は本当に女性受難の時代だったことが分かる。女は人間として認められず、親の財産も女性であるだけで継承できないと言う具合に、徹底的に差別されてきたのである。
女性特有の鋭い感覚が時に疑惑を呼び魔女騒ぎを起こし、多くの女性が火あぶりにされた悲劇も思い出される。そして長年にわたって積み上げられた女性の怒り・怨念が爆発して、フランス革命の頃から女性の人権が主張されるようになり、1960年代のウーマンリブ運動まで繋がっていくのである。
このような歴史的経過もあり、西欧における男女の関係は闘争的でまさに「男 対 女」という対立の関係なのである。そこには相手を理解するなどと言う思想はなく、女権拡張の運動は必然的に食うか食われるかという戦闘的なものになっていくのである。
日本の神話の中の男女関係
太古の人々の考えは神話を読めばよく分かるという。日本で、我々の先祖は男と女の関係をどのように見ていたのであろうか。古事記を紐解いてみるといろいろなことが見えてくる。聖書の創世記に相当するする記述では次のように書いてある。
はじめ天と地がうまれ、しばらくは一人神の時代が続き七代目にイザナギ・イザナミと言う男女の神が現われる。そして国産みの話しなどを通して、男・女の片方だけでは不完全で、両性が揃って初めて次の世代を生み出すことが出来る。
分化した男・女は互いに反発,敵対して闘争すべきではなく、ともに相手を必要として賛美し合って結ばれ、調和すべきものとして描かれている。互いに「相違」と「できそこない」を認め合った上で補い合おうとする「愛」と両者の差異の意味を重んじ、物事の正しい順序・道筋を決める原理である「条理」、この二つの原理により男と女の対立を乗り越える事が出来ると記されている。
その後、現在の皇室の先祖である天照大神が女性神として現れるが、当時は母系社会で女性の力が強かったことを示唆していると思われる。決して西欧のように「男対女」でなく、男と女は対立するものでなく、お互いに足りないものを補い合う「男と女」の関係だったことが神話を通して読み取れるのである。
以上の如く欧米と日本の考え方を見てくると、夫々の風土や歴史の違いがあり、単純にどちらが良い悪いとは言えないと思う。しかし日本人の場合はやはり日本の風土にあった、日本古来の伝統的な思想・考え方が何となく身の丈に合うのではないかと思われるが、如何なものであろうか。
西欧の「ロマンチック・ラブ」と日本の「家」
かって遠藤周作は、男女は異質であり「協力することは出来ても理解することは難しい」関係だと言った。本質的に異質なものを結びつける結婚制度はもともと無理なものなのかもしれない。
それが何とか続いているのは近代以降の西欧では「ロマンチック・ラブ」という考えであり、日本では家制度」であったと何かの本で読んだ記憶がある。
「ロマンチック・ラブ」の意味は「愛しあう男女が結ばれることが人生の最高の価値であり、その一瞬の為には何を捨ててもよい」ということで、愛がなくなればハイさようならなのである。これでは結婚が長く続くことは極めて難しいであろう。
日本の家制度は敗戦後、封建的だとＧＨＱにより廃止されたが本当に悪いものだったのであろうか。日本人の家族観はかなり独特のもののようである。シナやコリアのようにアジアでは血族単位の家族観が主体である。
前述した西欧の場合はキリスト教の関係もあり徹底した個人単位の家族観（親子とも夫々独立した個人）である。これに対して日本の場合は血族と言うより「イエ」単位の家族観なのである。この背景には先祖崇拝の思想が強いと言われている。
日本人はご先祖様や「イエ」が見えにくくなると大変不安になるという。「イエ」存続の為には養子縁組も平気で行われている。戦前の日本では、夫婦はお互いに足りないところを補って助け合い、余程のことがない限り分かれないのが普通であった。
大正時代あたりから西欧のロマンチック思想が流入し、若者はかなり影響されることとなった。さらに戦後は「イエ」思想が封建的で古臭いということになってしまった。
しかしこれによって日本人は本当に幸せになったのだろうか。流行に惑わされず自分の頭で本気になって考えるべき時期ではないかと思う。 文責：大谷
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