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新作映画レビュー/吉高由里子が舌ピアスに全裸SMと大活躍

『蛇にピアス』/85点

 2004年の芥川賞は、綿矢りさ&金原ひとみという美少女二人の受賞でちょっとした話題になった。その金原ひとみの受賞作の映画化『蛇にピアス』は、原作者たっての希望により、72歳のベテラン蜷川幸雄(にながわゆきお)監督がメガホンをとることになった。

 19歳のルイ(吉高由里子)は、渋谷でピアスだらけの男アマ(高良健吾)にナンパされる。舌先が二股に分かれたスプリットタンに興味を持ったルイは、そのままアマと同棲を始め、自らも挑戦することにした。舌ピアスの穴を徐々に拡張する技術を教わるため、アマは彫り物師シバ(ARATA)を紹介する。だが、シバの元に通うようになったルイは、彼からSMの調教を受けるなど、危険な関係にのめり込んでいく。

 「身体改造に興味を持つ人間の心理を分析したくてこれを書いた」と、原作者の金原ひとみは語る。いきすぎたピアッシングをはじめとする人体・身体改造は、生物種としての本能に逆行する行為であるから、そこにはよほど強烈な意志か、病的な心理状態が存在する事が予想できる。劇中、ある人物が「(形を変えることは)神の領域」と語る場面がある。神に逆らうヤツは、その二種類のどちらかしかないというわけだ。

 そしてヒロインのルイは、間違いなく後者だろう。彼女は寂しがり屋のチャンピオンみたいな人物で、その孤独感はもはや異常レベル。この女性の感じるさびしさが、いかに内向きで利己的なものかは、警察に捜索願を出すシーンでガツンと提示される。オンナがパニクっているのは愛する人物がいなくなるからではなく、一人になるのが怖いから。彼女にとって一番恐ろしい事は、自分の命を失うことですらない。それほどに深い孤独というものを、この映画は描いている。

 吉高由里子は、前評判通りの役作り&演技力。よほど監督への信頼感があったのか、素っ裸になっても役柄のイメージがぶれることはない。なまじ演技力があるものだから、たくさんあるHシーンの興奮度は相当高い。カメラも遠慮せずに、堂々と彼女のすべてを映し続ける。

 下手な大人顔負けの濃厚な色っぽさを感じさせ、いかにも10代の子らしいおしゃれな(かつ安っぽい)下着とのギャップが激しく感じられる。非の打ち所がないプロポーションも考慮した上で、本年度の濡れ場大賞は彼女に与えることにする。ちなみに彼女、私生活では痛いのは嫌いだそうだ。

 この映画は、まったく無音の渋谷の風景から始まるが、スクリーンの片隅に見える駅前の巨大液晶にはアメリカのプロボディビルダー、山岸秀匡(やまぎしひでただ)の勇士が写されている。

 アメリカのプロボディビル界では、選手としての能力のほかに、どれだけ強力で大量の薬物に耐えられるかが問われる。遺伝的に劣る日本人ながらそこに堂々と飛び込んだ山岸選手の覚悟に私は心から敬意を表しているが、それはこの世界がまさに神の領域、人間社会の倫理と法を無視してでも限界に挑む、神をも恐れぬ人間の集まりだからだ。

 その意味でほかでもない、彼の映像をここに挿入した蜷川幸雄監督は、これ以上ないほど明確にテーマを表したファーストシーンを作り上げたことになる。きっと、この競技についても相当詳しい人物に違いない。


監督:蜷川幸雄
出演:吉高由里子、高良健吾、ARATA、あびる優、ソニン
公式サイト:・http://hebi.gyao.jp/
2008年9月20日公開
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