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医の現場から

【福島の大野病院医療事故 】

医療事故で娘を亡くした平柳利明さんに聞く

2008年09月21日

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 医療事故に対応する仕組みづくりが本格化している。下仁田町出身の歯科医師平柳利明さん(58)は、01年に東京女子医科大病院の医療事故で娘を失ったことを機に、患者と医師の両方の視点から医療事故を見つめ、患者やその家族の支援にあたっている。高崎市の医師佐藤仁さん(71)に話を聞いた先週に引き続き、福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が亡くなった事故をめぐる受け止め方を平柳さんに語ってもらった。

 ――大野病院の医療事故で医師の無罪が確定しました。どんなお気持ちですか。

 「証拠から判断する限り、無罪は当然だ。ただし、個人の責任が立証できなかっただけで、落ち度はあった。医療界は、この事故でどうすれば助けられる可能性が高くなったのかを検証してほしい」

 「無罪だからといって医療への信頼は回復しない。医療界が裁判で医師側ばかりに肩入れしたのは、信頼回復にマイナスだったと思う。医療事故の裁判で患者側の証人になった医師を裏切り者呼ばわりする手合いがまだいる」

 ――医師への信頼が損なわれたのはなぜでしょう。

 「本当の姿が見えてきただけだ。教師から『聖職』のイメージがはがれ落ちたのと変わらない。医師も普通の技術者だと思った方が良いかもしれない」

 ――医療界には都合の悪いことを隠蔽(いん・ぺい)する体質があると指摘する声も聞かれます。

 「そこは、劇的な変化を遂げたと思う。昔は事故がないのが当然で、事故対応など考えなかった。隠蔽もカルテの改ざんも日常茶飯事だった。今は隠すと損だという環境ができてきた。東京女子医大ではカルテの改ざんを理由に、医師が保険医登録を取り消された。事故はゼロにできない。こじらせないためには医師が正直なことが大事だ」

 ――医療安全調査委員会(仮称)の構想について。

 「実現するかどうか、医療側の良心が試されている。強制力は必ず持ってほしい。特に、医師を聴取する強制力を。調査に協力した人は、しない人より処分を軽くするといいと思う。ちゃんと調査して行政処分を下す仕組みができれば、警察が動く必要もなくなるだろう」

 ――東京女子医大では患者参加型の事故調査の仕組みができました。

 「病院が自らの欠点を発見できるところが良い。院長の権限が強まるし、教訓を全科で共有できる。ただ、運用は楽ではないし費用もかかる。患者側も大変で、まず多くの類似事例を調べ、病院に納得してもらう必要があった」

 「私は医師と患者双方の考えが分かるから仲介役になったが、特に、重度の障害が残った患者のためには医師側と妥協するまいと思った。一方で、医師側の事情も分かる。落としどころを探る作業はしんどかった」

 ――こうした取り組みで十分でしょうか。

 「往診先で患者と茶飲み話ができる医師は、医事紛争と無縁だ。トラブルは感情的な問題で起きることが多く、患者への接し方一つで解決したりこじれたりする」

 「医師は書類の記入など雑用が多すぎる。もっと本来の仕事に専念し、じっくり診察できるようにしなければならない。患者も、自分で信頼できる医師を探す努力が必要だ」(聞き手・渕沢貴子)

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