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社説2 高齢者医療廃止発言は唐突だ(9/21)

 舛添要一厚生労働相が4月に導入した後期高齢者医療制度を廃止して新しい制度の創設を検討すると表明した。衆院解散・総選挙を意識した唐突な方針転換のように映る。

 政府・与党は春以降、今の高齢者医療の枠組みは必要だと一貫して主張している。病気やケガをしやすくなる75歳以上の人のための医療給付費を、国と地方自治体が出す税金、現役で働く世代が負担する拠出金、高齢者本人の保険料――の3つの財源で賄う仕組みによって、持続性を高められるという説明だ。私たちもこの枠組みを支持してきた。

 この制度は発足時、厚労省や実施主体である市区町村連合が中身の説明を怠り、高齢者の間に混乱が広がった。後期高齢者という名前への反感や保険料を公的年金からあらかじめ差し引く仕組みへの反発もあり、政府・与党は防戦に追われた。4月末の衆院山口2区補選で民主党が勝ったのは批判票を集めたためだ。

 執行面を中心とする失政の打撃はいまだに収まっておらず、衆院選でも与党が苦戦を強いられるのは明らかだ。舛添氏はそれを予想して踏みこんで発言したのだろうが、責任者の自覚に欠けるのではないか。

 20日のテレビ番組では「制度そのものは良いが、どんなに良くても国民の気持ちがついて来なければ機能しない」と語った。合理性の乏しい感情的な反対論者を説得できないということだろうか。足らざるところを直し、執行面の不備を補い、制度の良さを理解してもらう惜しみない努力こそが厚労相の仕事である。

 舛添氏は福田政権の閣僚なのに首相には諮らず、自民党総裁候補の麻生太郎幹事長の同意を取りつけたとも説明した。総裁選をにらんだすり寄りとみられても仕方がない。

 政府・与党で1年程度かけて議論するという新制度の中身も判然としない。(1)年齢による区分をやめる(2)保険料の年金からの天引きを強制しない(3)世代間の反目を助長しない――の3点をめざすという。聞こえはよいが全体像がみえない。たとえば世代間の反目とは何を指すのか。

 現行制度の廃止ばかりを唱える民主党も不見識だが、厚労相は制度に全責任を負わなければならない。有権者の選択眼が問われる局面だ。

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