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NIKKEI NET

社説1 金融危機への包括的な対策に動く米国(9/21)

 金融システム危機に直面する米政府が総合的な金融安定化策に動き始めた。個別の金融機関の救済や破綻処理を軸にした従来の姿勢から、包括的な対策への転換ともいえる。前向きな一歩として評価したい。

 対策は幅広い分野に及ぶ。公的資金を使った不良資産の買い取り機関の創設、預金と同様の性格を持つMMF(マネー・マーケット・ファンド)の払い戻し保証、約800の金融機関に対する株式の空売りの一時的な禁止措置などを盛り込んだ。

 米政府は、個別の危機対応の限界を市場に突きつけられていた。3月、大手証券ベアー・スターンズの事実上の破綻処理を支援した際には株式市場にひとまず安心感が広がったが、相場の上昇は2カ月で終わった。今月、住宅公社の救済を発表したあとの上昇はわずか1日、保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の救済を決めた翌日は逆に下落している。

 安定化策の目玉は不良資産の買い取りだ。住宅バブルの崩壊で金融機関は多額の不良資産を抱えた。貸し渋りを生んで家計の消費や企業の設備投資を圧迫し、米経済の悪化につながる構図の根幹である。

 買い取り策の詳細は今後、議会との調整で固まるが、課題は多い。まず資産の買い取り価格だ。あまり安く買えば金融機関が損失の大きさを恐れ、売り控えるだろう。一方、高く買えば、後で税金を棄損しかねない。住宅関連商品の評価にははっきりしない面もあるだけに、価格の透明性の確保が重要になる。

 買い取る資産の規模も焦点だ。ポールソン財務長官は公的資金の投入総額を「数千億ドル」と述べるにとどめた。市場心理は萎縮しており、小規模だとパニックの芽を残す。

 不良資産の買い取りで危機が収まるかどうかの問題もある。買い取り機関は米国が1990年前後の貯蓄金融機関の危機で使った整理信託公社(RTC)がモデルだが、同じくRTCを下敷きにしたのが90年代末に金融危機に陥った日本だ。

 日本は機関を創設して不良資産の買い取りを進めたが、それだけではなく公的資金による大手銀行への資本注入に踏み込んだ。さらに大手行は再編を続け、危機を終えた。日本の事例が米国にそのまま当てはまるわけではないが、重要な教訓だ。

 米住宅価格の下落には歯止めがかかっておらず、このままでは時間とともに金融機関の不良資産は膨らんでいく。米国には、自国発の世界的な金融危機を食い止める責任がある。緊張感を一段と高めてほしい。

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