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社説:消費者行政組織 構想の優劣は選挙で競え

 主(あるじ)なき構想の行方はどうなるのか。汚染米問題で揺れる中、福田内閣が看板政策とした消費者庁を設置する法案が閣議決定された。推進役だった福田康夫首相の退陣で法案の国会での行方が見通せないまま、バトンは次の政権に引き継がれる。

 「国民目線」を掲げた福田内閣だったが、太田誠一農相の辞任に発展した汚染米への農水省の対応を見る限り、中央官庁にその意識は全く浸透しなかった。組織改編で消費者行政の一元化を目指す政府案に対し、民主党は外部から行政、業者を監視する「消費者権利院」構想をまとめた。どちらが的を射ているか、次期衆院選で競い合うべきである。

 消費者庁は内閣府に新庁を設け、商品表示、取引規制や物価問題などの司令塔とする構想だ。29法令を移管、09年度予算案概算で要員208人、総額182億円の要求を盛り込んだ。

 関連法案の「消費者安全法案」は自治体に置かれた消費生活センターを正式に法律上の組織と位置づけ、国からの支援を定めた。首相が消費者事故に関する情報を公表したり、他省に措置を求められるよう規定。所管不明な「すきま事案」は首相自ら業者に勧告や命令ができるようにした。

 ただ、構想がうまく稼働するか、疑問がつきまとう。「薬害」「保険」など多くの分野が所管外のうえ、担当分野も従来の所管省との共管など権限の線引きが複雑な部分が少なくない。屋上屋を架す組織となる懸念は、払しょくできない。

 自治体への支援も、課題が残る。大半が非常勤で雇用期間も短く、不安定な状態に置かれている消費生活相談員の身分保障に法案は踏み込んでいない。首相に与えられた各種の権限も、消費者庁への正確な情報集約が行使の前提だ。法案は消費者事故が発生した際、中央官庁から首相への通知義務を定めたが、どこまで徹底されるかは不確かだ。

 一方、民主党案は内閣から独立した「消費者権利院」を設け、民間から任用した「消費者権利官」をトップに据える構想だ。権利官は各省に調査を求めたり、業者への処分を勧告する。地方の相談員は任期つきの国家公務員とし、中央と相談窓口の一元化を図る。

 民主案は組織いじりをしないためわかりやすく、肥大化も招きにくい。ただ、外部組織が中央官庁に実権をふるえるか、権利官にふさわしい人材がいるかなどの問題がある。相談員を国家公務員とした場合、地方分権の流れと整合するかも論点だろう。

 法案が次の政権で改めて閣議決定されても、衆院が解散されれば廃案となる。汚染米問題が物語るように、どう組織を改編しても官僚の意識が変わらない限り、消費者行政の改革は絵に描いたモチに終わる。「目線」を改めるためどんな組織が効果的か、議論を深めなければならない。

毎日新聞 2008年9月21日 東京朝刊

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