転院直前、病室で松井医師(右)と面談する中村さん夫妻。中村さんの妻は「夫はこの病院に残りたがっていた」と話した
|
|
岡野俊昭市長の決断で、9月末で休止される銚子市立総合病院。入院患者は出て行かなければならず、職員は“解雇”が決まった。再就職できない職員だけでなく、転院先が決まった患者でさえ先行きへの不安は強い。公立病院が消える波紋を追った。 (武田雄介)
九月十八日、病院二階の療養病床。入院患者の家族や医師、看護師ら十数人が集まりお別れ会が開かれた。三人の入院患者のうち二人が翌日に病院を去ることになっていた。
その一人、中村光男さん(59)の妻美智子さん(55)は「皆さんのおかげで気持ちが救われた」と振り返り、「ずっとここにいたいのに」とこぼした。
鉄工所経営の光男さんは、作業中の転落事故で脳挫傷となった。ほぼ寝たきりな上、高次機能障害で感情を調節できず突然大きな声を出すことがある。「他の患者に迷惑になる」と、多くの私立病院が入院を断る中、受け入れたのが市立総合病院だった。
中村さん夫婦が安心できる場所を見つけた七カ月後、病院の休止が決まった。「次の病院で主人の症状を理解してもらえるか」。美智子さんは、お別れ会の間も泣いていた。
准看護師の常世田真弓さん(45)は七月に正職員になる予定が白紙化された。十月からは無職。十五人いる同僚の大半は再就職先が未定だ。常世田さんは二〇〇六年の市長選での病院存続の公約を信じて岡野市長に投票した。「公約を守らずに市長にとどまることにあきれる」と怒りを隠さない。
公立病院は想定外の事態にも対応できた。中村さんのような問題を抱えた患者をはじめ、医療費の支払いが困難な人でも医療行為を受けられた。療養病床の松井稔医師(44)は「市はセーフティーネットを失った」と危機感を募らせる。
「転院先の紹介状を患者に渡せばすむ問題かもしれない。でもそうはしたくない」。松井医師は、患者が主治医と通い慣れた病院を心のよりどころにしているからだと訴えた。
休止発表以降、医療器具が満足に使えず、治療はもちろん診察もままならない。それでも、松井医師の元には多くの外来患者が訪れる。「患者の気持ちを最優先にベストを尽くしたい」と普段通りの診察を続けている。
松井医師は「首長の決断一つで公立病院がつぶせることが証明された。市民が常に病院のことを考えなければならない時代になった」と警鐘を鳴らす。松井医師は十月から山武市の国保成東病院で、再び病院の再建に尽力する。
この記事を印刷する