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【埼玉】医療崩壊 医師数 今の1.5倍必要 県済生会栗橋病院副院長 本田宏氏(54)2008年9月21日
「医療崩壊」が全国で進んでいる。救急患者が病院をたらい回しにされたり、がん患者が手術を長期間待たされたりする。病院の診療科や病院自体がなくなっていく。最大の原因は、急性期や慢性期の医療を支える勤務医不足だ。小児科や産科だけでなく、外科も内科も勤務医の絶対数が足りない。 県民も覚悟しなければならない。県の人口当たりの医師数は全国最下位だが、若者や東京都内の病院利用者が多いためか、今まではどうにか対応してきた。しかし、団塊世代が高齢化して東京に通えなくなれば、県内では医師もベッドも足りず、大量の“医療難民”が生まれるのではないか。 勤務医不足は現場に過重労働を強いてきた。済生会栗橋病院の外科医は月三、四回の当直で、連続三十二−三十六時間勤務する。入院患者のために三百六十五日、二十四時間待機し、救急などの呼び出しもある。患者の高齢化や医療技術の進歩で仕事量は年々増え、休みをとれない。身も心もボロボロになった勤務医が各地で病院を辞めているが、補充は難しい。残った医師の負担はさらに増え、この悪循環が医療崩壊を加速させている。 国は医療費を抑え、大学医学部の定員を増やしてこなかった。厚生労働省は「医師は足りている」と言い続けてきたが、経済協力開発機構(OECD)の加盟国平均と比べ、少なくとも十二万人は足りない。国内総生産(GDP)に占める医療費の割合も先進七カ国の平均11%に対し、日本は8%ほど。病院経営は苦しく、患者の自己負担は世界最高なのに、先進国にふさわしい医療サービスを提供できていない。 背景には「官尊民卑」の思想がある。厚生労働省の高級官僚は天下り先の少ない医療現場に関心がなく、財務省を喜ばせるために医療費を削ってきた。国は事実を隠し、姥(うば)捨山のように国民の命を見捨てている。 日本のリーダーには「医療崩壊は日本崩壊」と自覚してほしい。特に団塊世代への対応が急務で、医師数を今後二十年間で一・五倍に増やし、勤務医を雇うための公的資金を病院に注入するべきだ。天下り法人や公共事業の無駄遣いをなくせば、財源は十分確保できる。 (杉本慶一) 福島県郡山市生まれ。弘前大卒業後、同大、東京女子医大勤務を経て1989年に県済生会栗橋病院(栗橋町)外科部長。2001年からは副院長。NPO法人「医療制度研究会」副理事長。著書に「医療崩壊はこうすれば防げる!」など。
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