岩見隆夫のコラム

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近聞遠見:「国替え」騒動のハラハラ=岩見隆夫

 最近の政治はドラマ作りの競争みたいなところがある。特に選挙が近づくと、いかにして国民の耳目を引き、関心を誘うか。

 福田康夫首相の突然の辞任表明と5人の後継候補者による全国遊説行脚も劇場性がないとは言わないが、はずみに欠けた。それにくらべると、民主党の小沢一郎代表が仕掛ける<国替え>騒動のほうが、筋書きによっては劇的効果が大きい。

 なにしろ、野党第1党の党首が当選13回、38年間も住みなれた国(岩手4区)を捨て、首都・東京になぐり込みをかけそうだというのだから、観客はわく。民主党の選挙情勢は、地方に強く都市部に弱いといわれる。そこで、乾坤一擲(けんこんいってき)、小沢は捨て身の賭けにでるつもりらしい。

 どんな展開になるのか。小沢側近の某衆院議員が言う。

 「小沢は東京12区(北区、足立区の一部)に挑みたい。私たちは止めている。若い候補の応援に行ってもらいたいからね。本人は『落ちてもいい。首相になってもならなくてもいい。とにかく政権交代させるんだ。あとは若い人でやってくれ』と言っている。根性を決めてますよ」

 東京12区は公明党の太田昭宏代表の地盤だ。小沢出馬となれば、民主・公明の全面戦争に発展し、選挙情勢全体にも響いてくる。

 もともとの火つけ役は鳩山由紀夫幹事長、12日発表の第1次公認から小沢がはずれていたことについて、

 「岩手からは出ない。関東中心に決めるのではないか。東京12区の可能性はある」

 と述べたため、永田町はハチの巣状態になった。

 関東のどこ、と選挙区探しが始まったが、小沢は黙して語らない。民主党首脳は、

 「鳩山さんの言い過ぎではないか。しかし、もう岩手には戻れないな」

 と考え込んだ。

 最初は東京1区(千代田、港、新宿3区)説が流れた。鳩山はそれを打ち消すため19日1区入りし、公認内定者の海江田万里前議員と区内を遊説して回った。東京の某民主党候補は、

 「1区もないが、12区もないと思う。公明党とは小沢さんもいろいろあるだろうから。どこかなあ。福田さん(群馬4区)のとこか小泉さん(神奈川11区)か」

 と首をひねるのだ。

 しかし、小沢の狙いは東京12区に絞られているとみていい。12区に近い選挙区の民主党候補は、

 「小沢さんを長年支えてきた岩手の有権者のことを思うと、あまり行儀のいいことではない。しかし、<なんでもあり>になってきた。『もし12区に来れば、波及効果はすごいぞ』と私の支持者なんか言いますね」

 と小沢の東京作戦に期待の声が出ている。25の東京小選挙区のうち、前回の当選は菅直人代表代行1人だ。首都でせめて半分は取らなければ、民主党の勝利はない、と小沢は思い詰めているのだろう。

 小沢と6年間政治行動をともにし、国替えの先輩でもある小池百合子元防衛相は、最近、小沢批判の一文(「中央公論」10月号)のなかで、

 <「公約(膏薬)は貼(は)り替えるから効き目がある」。以前、小沢さんがそう言ったのを聞いたことがある。何かの大目的のために、という小沢さんの本質をよく表していると思い、印象に残っている>

 と書いた。

 公約でなく、選挙区の貼り替えショックで、最終局面に新たな渦を作ろうとしている。ドラマ性十分だ。

 もし岩手に戻れば、逆効果ははかり知れない。国民の熱い視線を背に、小沢は自身を追い詰めている。毒々しい感じもあるが。(敬称略)=毎週土曜日掲載

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 岩見隆夫ホームページhttp://mainichi.jp/select/seiji/iwami/

毎日新聞 2008年9月20日 東京朝刊

岩見 隆夫(いわみ・たかお)
 毎日新聞東京本社編集局顧問(政治担当)1935年旧満州大連に生まれる。58年京都大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。論説委員、サンデー毎日編集長、編集局次長を歴任。
 
 

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