国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園(合志市)に隣接するハンセン病患者専用の菊池医療刑務支所跡などについて、九州財務局は既に公示していた入札による売却を中止した。
同刑務支所は、全国の療養所内にあった監禁室が廃止されたことに伴い、これに代わる施設として一九五三年に開設。八六年に建て替えられ、らい予防法廃止後の九七年に閉鎖された。
建て替え前の施設では、一般人の傍聴が困難で、非公開の状態で裁判が進められ、死刑判決が下された「藤本事件」の特設法廷が開かれたこともある。建て替え後から閉鎖までの収容者は、わずか一人で、通常なら服役しない軽い犯罪だったという。施設跡は隔離政策による入所者への人権侵害を物語る“負の遺産”とも言える。
今月四日に入札を公示した九州財務局に対し、同園の入所者自治会が「建物だけでも保存して、ハンセン病問題の正しい知識の普及などのために活用してほしい」と要望。元の所管である厚生労働省や法務省にも申し入れていたが、厚労省から九州財務局に「今後、歴史的建造物として保存を検討する必要があり、売却を当分中止してほしい」と連絡があったという。
今年六月に施行されたハンセン病問題基本法は、ハンセン病対策の歴史に関する正しい知識の普及啓発のため、歴史的建造物の保存などを国に求めている。建物の保存が決まったわけではないが、検討の余地を残した厚労省の判断は評価したい。
基本法の施行で、恵楓園では合志市などを交え、園の将来構想づくりが緒に就いた。構想策定の中で、建物が活用できないかも模索してほしい。(中村)
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