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過剰収容 招くトラブル

2008年09月20日

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 佐賀少年刑務所(佐賀市新生町)で7月、受刑者が相部屋の受刑者に暴行を加える事件が起きた。現場は「単独室」と呼ばれる定員1人の居室。受刑者の定員超過はこの数年間、常態化しており、関係者は異口同音に「過剰収容によるストレスが原因だ」と指摘する。(河村能宏)

 事件は7月13日午前10時半すぎに発生。収容棟の単独室で、30代受刑者が同じ部屋の20代受刑者に殴るけるの暴行を加えてけがを負わせたとして、傷害容疑で9月に佐賀地検へ書類送検された。室内のトイレ用スリッパで居室部分に足を踏み入れたことに立腹したと供述しているという。

 現場の単独室を訪ねた。

 縦3・3メートル、横1・8メートルの和室。奥には腰の高さほどの仕切りを隔てて洋式のトイレがある。居室部分にはテレビや小机なども置かれ、身動きできる空間は実質2畳ほど。定員1人という通り、2人暮らせるとはとても思えない。

 案内役の刑務官は「これほど密接した状態で寝食を共にするのは相当なストレス。ささいなことでトラブルになるのもわかる」。同刑務所では5月にも単独室で受刑者が相部屋の受刑者を室内の小机で殴る暴行事件が起きている。

 単独室は通常、1人になりたい受刑者や、6〜8人が暮らす共同室でうまくなじめない受刑者のための居室だ。同刑務所には現在304室あるが、そのうち60室が2人部屋になっているという。

 原因は入所者が6月末現在で、定員634人に対して722人(入所率113%)という過剰収容だ。新しく収容棟を建てる場所も予算もない中、刑務所としては、1人あたりの居住面積を減らしての「すし詰め」以外に手だてがないという。

 過剰収容は、受刑者の心的ストレス以外に、施設の運営自体にも支障を来す。同刑務所では、数十人単位で刑務作業などを行うが、この規模が大きくなれば、指導にあたる刑務官の増員や、食事や風呂など生活面での受刑者の管理方法の変更にもつながり、職員に過度の負担がかかる恐れも出てくるという。

 同刑務所の五反田伸一所長は「5、6年前から過剰収容が目立ち始めたが、刑務所が『受け入れられません』とは言えない。受刑者にはかわいそうだが、工夫をこらして受け入れるしかない」と話す。

 こうした定員超過に直面している刑務所は、九州では6月末現在、11施設中6施設に上る=表。

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 法務省矯正局によると、刑務所など全国の矯正施設の入所率は、98年末の時点で82・8%だったが、01年末では101・2%と定員超過に。施設の新設による定員増で定員超過は07年に解消されたが、同年の受刑者による他の受刑者や職員の殺傷・暴行は約6900件と、98年の約4600件を大幅に上回った。

 刑務所を06年に出所した約3万人を対象に同省が実施したアンケートでは、「受刑生活で苦労したと思うこと」として、回答者の約8割が「受刑者同士の関係」を挙げている。施設の過密状態が背景にあると矯正局は分析する。

 同省が07年に新設した刑務所は、山口県美祢市、栃木県さくら市、兵庫県加古川市の各「社会復帰促進センター」で、計4千人分の定員を確保。同年末の全国の入所率は93・7%に下がっている。

 だが、受刑者の人権擁護活動に取り組むNPO法人「監獄人権センター」(東京都)の海渡雄一事務局長は「施設増設で一時的に過剰収容を解消しても、刑期の長期化傾向が解消されない限り、問題の抜本的解決にはつながらない。犯罪者は刑務所へ、という発想から抜け出し、老人ホームでのボランティアといった『社会奉仕命令』などの代替刑を含めた、犯罪者の処遇の選択肢を増やす議論を進める時期に来ている」と指摘する。

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■九州の各刑務所の入所率(08年6月末時点)
  (施設/入所率(定員)/収容形態)

 ○北九州医療刑務所(北九州市)/88%(300)/精神障害者を主に収容

 ○福岡刑務所(福岡県宇美町)/97%(1953)/犯罪傾向の進んだ受刑者、身体障害者、外国人を主に収容

 ○麓刑務所(鳥栖市)/124%(302)/女性刑務所

 ○佐世保刑務所(長崎県佐世保市)/88%(662)/犯罪傾向が進んだ受刑者を主に収容

 ○長崎刑務所(長崎県諫早市)/111%(773)/犯罪傾向の進んだ受刑者、外国人を主に収容

 ○熊本刑務所(熊本市)/103%(638)/刑期8年以上の受刑者を主に収容

 ○大分刑務所(大分市)/86%(1372)/初犯者を主に収容

 ○宮崎刑務所(宮崎市)/114%(417)/犯罪傾向が進んだ受刑者を主に収容

 ○鹿児島刑務所(鹿児島県湧水町)/103%(705)/犯罪傾向が進んだ受刑者を主に収容

 ○沖縄刑務所(沖縄県南城市)/98%(489)/初犯者、身体障害者、犯罪傾向が進んだ受刑者など幅広く収容

 ○佐賀少年刑務所(佐賀市)/113%(634)/初犯の少年、26歳未満の成人を主に収容

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