突然退陣表明した福田康夫首相の部下もまた職を投げ出した。太田誠一農相である。内閣総辞職を目前にしてのタイミングだ。これで汚染米問題を幕引きにするつもりなら、茶番に過ぎる。
 
 安倍前政権以降、農相ポストは「鬼門」と化している。事務所費問題などでこれまでに松岡利勝、赤城徳彦、遠藤武彦の三氏が途中退場。今回で四人目だ。
 
 太田氏は十九日、辞任の理由として、汚染米の不正転売を農林水産省が長年防げず、食の安全をめぐり重大な社会問題を引き起こしたことを挙げた。汚染米流通ルートの骨格がほぼ判明し再発防止策も決まったのを機に、省全体としての責任を明確にすべきだと判断したという。
 
 消費者重視が政権の旗印でありながら、農水省の「人ごと」行政は国民をあきれさせた。百回近くも立ち入り調査をしながら不正を見抜けなかった失態に加え、問題をことさら軽視し国民に不安を募らせた罪はあまりに重い。組織がたるみきっている。「農水省に責任なし」と発言した事務次官が更迭されたのは当然だ。
 
 ただ、福田内閣の総辞職が二十四日に予定されている中での農相辞任には違和感を覚える。
 
 民主党は「このままでは衆院選を戦えないという党利党略の辞任だ」と指摘する。大臣と事務次官がそろって職を辞すことで、汚染米問題の幕引きを狙ったのではないかとの疑念がぬぐえない。
 
 むしろ、首相に重なる唐突な辞任は政権の無責任体質を露呈してしまった。他の大臣より五日前に辞めたからといって出処進退の潔さを評価する声も少ない。
 
 本来、太田氏は農相になってはいけなかったのではないか。
 
 就任直後、食の安全で「消費者がやかましい」と発言。汚染米問題でも「あんまりじたばた騒いでいない」と、消費者軽視の言動を繰り返した。不明朗な事務所費問題も発覚した。大臣の適格性に欠けていたといわれても仕方ない。
 
 首相から任命責任について、納得のいく説明が聞きたい。
 
 首相の退陣表明以降、自民党総裁選が延々と続き、国政は事実上滞っている。候補者たちはこの日も街頭などで支持を訴えた。農相批判も口にはしたが、長引く政治空白と、その中で起きた農相辞任劇を消費者はどうみているか、そのことを軽く考えない方がいい。
 
 政府・与党は性根を入れて万全の対応を急がねばならない。
 
 
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