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社説:アフガン支援 民意得て与野党の合意目指せ

 政府は、海上自衛隊がインド洋で実施している外国艦船などへの給油活動を延長するための新テロ対策特措法改正案を閣議決定した。来週発足する新政権が臨時国会にこの法案を提出する場合には、改めて閣議決定しなければならない。

 まず、福田内閣が、自衛隊の海外派遣を継続する重要法案を、1週間足らず後に退陣するこの時期に決定した異例ぶりを指摘せざるを得ない。福田康夫首相は政権の柱の一つに掲げてきた「平和協力国家」を改めてアピールしたかったのかもしれない。しかし、福田内閣は、この法案の行方に政治的責任を負うことはできない。にもかかわらず、あえて閣議決定に踏み切ったことに強い違和感を覚える。

 新旧テロ特措法で続けてきた給油活動が、麻薬を資金源にしようとするテロリストへの抑止力となったのは間違いないだろう。米同時多発テロ後の安全保障環境の大きな変化もあわせて考えれば、国際的なテロ包囲網に日本も関与すべきであり、洋上給油活動は選択肢の一つである。

 しかし、毎日新聞は新テロ特措法で旧法にあった国会承認規定が削除された問題点を指摘してきた。今回の改正案にも国会承認は盛り込まれていない。重大な欠陥が引き継がれている。

 自民党国防部会防衛政策検討小委員会が2年前に作成した、自衛隊の海外派遣を恒久化する法案は、文民統制の観点から、具体的な派遣は衆参両院の事前承認を義務づけている。この法案の精神からも大きく後退している。野党が多数を占める参院を回避するために新テロ特措法で国会承認をはずし、改正案がこれを受け継いだのであろう。

 ところが、この改正案がこのまま臨時国会で成立する可能性はほとんどない。野党が反対しているため、成立には衆院の「3分の2」による再可決しかないが、公明党は総選挙前の、評判の悪い再可決に反対している。そして、衆院解散・総選挙を経れば、今の与党勢力が過半数を占めたとしても「3分の2」を切るのは確実視されているからだ。

 一方、民主党が国会提出しているテロ根絶法案は、自衛隊をアフガニスタン本土に派遣するものだが、停戦合意が成立している地域に限っている。しかし、テロ組織を相手に、停戦合意が実現する見通しはない。法案に盛られた民生中心の文民派遣も、治安悪化で見直しが迫られている。

 法案成立の実現性が低い政府案と、派遣の現実性に欠ける民主党案という構図なのである。

 近く予想される総選挙では、与野党とも、アフガン復興支援、テロ包囲網への参加のあり方をめぐって論戦を繰り広げるべきである。そして、この民意を受けて、新しい与野党が、政局の駆け引きを抜きに、新たな方策について合意を目指すのが筋である。

毎日新聞 2008年9月20日 東京朝刊

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