太田誠一農相と白須敏朗農水事務次官が辞任した。汚染米の不正転売問題に関し、農水省のずさんな検査体制が明らかになった。さらに責任逃れとも受け取れる発言などが強い批判を浴びており、事実上の更迭人事だ。
福田内閣が残りわずか5日というタイミングで太田農相と白須次官を更迭したのは、解散総選挙を控え、与党側のマイナス材料を少しでも減らしておこうという思惑が働いてのことであるのは明らかだろう。
しかし、閣僚と事務方トップが辞任したからと言って、それで済ませられるような問題ではない。
汚染米が流通した先は、酒やせんべいなど加工用だけでなかった。学校給食や病院の食事、コンビニのおにぎりなどを通じて直接、多くの人が口にした。
ところが、太田農相は「人体に影響はないと自信を持って言える」と発言し、また、白須次官は「責任は一義的には企業にある」「農水省に責任があるとはいまの段階では考えていない」と述べた。
食に適さないものが食品となり、人の口に入るということはあってはならないことだ。太田農相と白須次官にはその認識が欠如しているとしか思えない。
そうした人たちが、食の安全をつかさどる行政のトップにいるべきではない。特に太田農相については、秘書官宅を事務所として届け多額の経費を計上していた問題などもあり、更迭は当然の措置だ。しかし、これを与党の選挙対策だけで終わらせてはならない。
不正を見抜けなかったずさんな検査も問題だが、のりの原料に米が使われることはほとんどないという実態がありながら、汚染米をのり用として大量に売り渡すことに、何の疑問も持たなかったのだろうか。
また、風評被害を理由に最初は非公開としていた売り渡し先を公表した際に、食用にしていない業者もリストに含めるといったことも起こった。信用を傷つけられた業者にとって、不手際では済まされない。
BSE(牛海綿状脳症)問題など、農水省の行政機関としての能力に疑問を抱かせる出来事はこれまでもあった。しかし、業者寄り、消費者軽視の姿勢が変わっていないことが、今回の汚染米問題で改めて示された格好だ。
汚染米問題について政府は検討チームをつくり、再発防止策など対応策をまとめることにしている。
しかし、農水省のあり方を抜本的に変えない限り、食の安全を確保することは難しいと、多くの人が感じている。その一方で、世界的な食糧不足など食をめぐる環境が大きく変わり、それにどう対応するのかも日本は問われている。
トップの更迭で終わらせず、農政の抜本的改革につなげることが必要だ。
毎日新聞 2008年9月20日 東京朝刊