日米欧の中央銀行が金融危機の拡大を阻止するため、緊急の協調行動に踏み切った。米大手証券リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)以来、世界の金融市場で急速に高まったドル資金の不足に対する不安を沈静化させようという措置だ。米国発の金融危機が、個別金融機関の破綻懸念という次元から、金融システム全体の機能不全という、より深刻な局面に進んだことを示している。
リーマンへの支援を拒否した米金融当局は一転、大手保険AIGへの公的資金投入を決めた。民間保険会社を政府の管理下に置く異例の措置だったが、危機収束への期待は広がらなかった。それどころか、残る大手証券のモルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスの株が売られて急落するなど、市場では次の破綻先を探すかのような動きが強まった。
それ以上に深刻だったのは、市場参加者が極端にリスク忌避の姿勢を強めたことだ。これまで安全と見なされてきた金融商品でさえ売り一色となり、償還期間が短い米政府証券など、ごく限られた対象にしかドル資金が集まらなくなった。
金融機関同士が当面のドル資金を融通し合う短期金融市場では、取引相手の信用度に関係なく貸し出しそのものを手控える動きが、かつてない程度まで広がった。放置すれば、経営破綻の懸念が小さい金融機関まで、資金繰り難から“突然死”に追い込まれ、パニックの連鎖が起きかねない状況になりつつあった。
主要中央銀行が各国の市場で一斉にドルの資金供給を行うのは、こうした新段階の危機に対処するものだ。「米国外であっても、市場でドル資金が不足することはない」と中央銀行がそろって表明し、市場に安心感が戻るのを期待した。日銀にとっては初のドル資金供給となる。
発表直後の金融市場は好感し、急騰していたドルの短期金利がいったん低下した。しかし、これはあくまで高熱の患者に解熱剤を投与したようなものだ。病気そのものを治療するわけではない。解熱剤が効いている間に、米国の金融当局と経営不安を抱えた金融機関の経営者は、迅速に抜本策を打ち出す必要がある。
サブプライム問題が表面化して13カ月になるが、米政府も金融機関も、危機感が足りなかった。政府は公的資金の投入をぎりぎりまでためらい、市場から追い詰められてから動く後手の対応に終始してきた。事態が深刻度を増す中で、米当局には先手の対策を改めて求めたい。
日米欧の金融当局は、今後も情報を緊密に交換しながら、万全の協調態勢をとる必要がある。一方、経営不安が取りざたされている金融機関が、余力のある他社との合併交渉などに動き出したが、経営者には信用回復を最優先し、思い切った決断を下してほしい。
毎日新聞 2008年9月19日 東京朝刊