大阪市の米粉加工販売会社「三笠フーズ」が、カビ毒や基準値を超えた残留農薬を含んだ汚染米を不正転売していた問題で、農林水産省が公表した流通先は、二十四都府県の約三百八十業者に上っている。さらに広がる恐れもあり事態は深刻だ。
農水省の調べでは、農薬メタミドホスに汚染されたもち米は、米粉として和菓子や米菓の原料に使われたほか、近畿地方の病院や保育園では、主食として消費された。外食産業に出回ったことも明らかとなった。岡山県では和菓子製造などの十八業者、広島県でも三業者に販売された可能性もあるという。カビ毒アフラトキシンなどに汚染されたうるち米は、九州の酒造会社で焼酎や酒の原料となった。酒や菓子などの回収と廃棄の費用は、総額で二十億円以上に膨らむ見通しだ。
三笠フーズ以外にも愛知県や新潟県の業者が不正転売していたことも判明した。農水省は刑事告発を検討している。食用にできない工業用の事故米の転売が、いつから行われていたのか。ウミを徹底的に暴き出す必要がある。
一連の問題で、農水省の失態は大きい。事故米の価格は輸入米と比べて、格段に安い。利益を得ようとする不心得者が出ると考えるのが自然だろう。
三笠フーズに対し農水省は、過去五年間で九十六回も立ち会い点検を実施しながら、不正を見抜けなかった。業者に事前に日程を知らせてのおざなり検査だったのが原因だろう。さらに農政事務所の元課長が三笠フーズから接待を受けていた不祥事も発覚している。引き取り手のない事故米を購入してくれる業者となれ合いがあったとしたら問題だ。
農水省は再発防止策を発表している。政府による汚染米の販売中止と輸入検疫で基準値以上の残留農薬が検出された場合、輸出国への返送か焼却処分にする。重要なのは、コメのトレーサビリティー(生産履歴)の導入だろう。問題のあるコメがどこで精米され、販売されたかなど、移動を把握できれば、今回のように流通先調査に時間をとられることもない。情報開示や回収も容易になるだろう。
消費者の食への不信、不安は広がるばかりだ。福田康夫首相は情報を野田聖子消費者行政担当相に一元化するよう命じ、農水省は主導権を取り上げられた格好だ。食の安全確保のためには、消費者の立場に立つことが何より重要だ。汚染米や加工された食品を口にした消費者に対して、健康面の影響などの丁寧な説明も求められる。
国の出先機関の抜本的改革を検討している政府の地方分権改革推進委員会が、出先機関の所管する事務や権限の見直しに対する中央省庁の見解をまとめた。地方への移譲を検討するとしたのはごく一部で、「引き続き出先機関で対応する」との主張が全体の九割を占めた。
事実上のゼロ回答である。既得権益と組織防衛に固執する省庁の体質があらためて浮き彫りにされたといえよう。
国の出先機関は、都道府県や地方ブロック単位で設置している中央省庁の地方組織だ。省庁の直轄事業や許認可事務などを担うが、地方自治体と仕事が重なる「二重行政」の弊害が指摘されている。八月の分権委中間報告では、必要性のない組織の廃止や省庁横断的な総合出先機関への統合、自治体への人員の移籍や財源移譲が提言された。
分権委が見直し対象としているのは、国土交通省の地方整備局など八府省十五機関が担っている四百八件の事務・権限だ。職員は計約九万六千人、予算規模は約十二兆円に上る。
事務・権限の廃止や地方への移譲などの検討を府省側に求めていたが、地方移譲を明記したものはなく、移譲を「検討中」はわずか二十七件だった。引き続き出先機関に残すとした事務・権限は検討段階も含め三百五十八件に上った。移譲できない理由としては、「全国統一的な運用が要請される」「専門的知識が必要」「広域的な対応が必要」などが挙げられた。
分権委は、年末に首相に提出する予定の第二次勧告に向けて省庁側に譲歩を求める方針だが、このままでは議論は平行線に終わるだけではないのか。分権改革を後退させてはなるまい。見直しにどこまで切り込めるか、政治の役割、新首相の強い指導力が一段と問われよう。
(2008年9月18日掲載)