緊急会見する日本銀行の白川方明総裁=18日午後、東京都中央区の日銀本店、飯塚悟撮影
金融市場の動揺を収めるため、日本銀行を含む世界の主な5中央銀行は18日、民間の金融機関が資金を貸し借りする短期金融市場に、総額1800億ドル(約18兆8千億円)の米ドルを供給すると発表した。日銀が自国の通貨ではないドルを市場に供給するのは初めてだ。
今週になって米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)やメリルリンチの身売りなどが相次ぎ、信用不安は極点に達した。銀行間の資金の貸し借りが滞っており、特に欧州の金融機関は自国・地域の通貨ではないドルの調達が難しくなっている。各国の中央銀行は異例の資金供給態勢をとって金融機関の資金繰りに万全を期し、市場の安定化に向けた強い意志を示す狙いだ。
市場にドルを供給するのは日銀のほか、欧州中央銀行(ECB)、英イングランド銀行(BOE)、カナダ銀行、スイス国立銀行。各中銀は米連邦準備制度理事会(FRB)傘下のニューヨーク地区連邦準備銀行と、自国通貨とドルとを売買する「スワップ協定」を締結。入手したドルを、ドルが必要な民間金融機関に貸す。
日銀は600億ドル(約6兆3千億円)を受け持ち、9月中にも入札を実施。円建てで担保を取った上でドルを貸す。各中銀の協定の期間は、年末の資金需要増加を見越して09年1月30日まで。
ECBとスイス国立銀行は07年末以来、サブプライム問題で年末の資金繰りに窮した金融機関を救うため、同様の枠組みを670億ドル規模で導入。今回はこの仕組みを新たに三つの中央銀行が採り入れ、ECBとスイス国立銀行も借入枠を拡大、より大がかりな仕組みにした。
背景にあるのは、サブプライム問題をきっかけに世界中に広がった金融不安がいっこうに鎮まらないことだ。米国の大手証券や政府系住宅金融機関、保険会社の破綻や政府による救済が相次ぐなか、金融機関の間には「次はどこがつぶれるのか」という不信感が広がっている。
このため、金融機関同士が手元の資金を融通し合う短期金融市場では金利が上昇し、疑心暗鬼になった貸手と借り手の間で条件が折り合わずに、金融機関の資金調達が著しく滞っている。特に国際的な決済に欠かせないドルの調達が難しくなり、1カ月物や3カ月物といった貸付期間が長い取引については「通常であれば問題なかった取引すら成立しない」(日銀)状態になっているという。
白川方明・日銀総裁は18日夕、緊急に開いた記者会見で「邦銀は最近の金融市場の動向を踏まえて、外貨に慎重な運用を行っており、特段の懸念を持っていない」と発言。今回の措置が、主に海外の金融機関を念頭に置いたものであることを暗に示した。
サブプライム問題が表面化した昨夏以降、欧米の短期金融市場でドルの調達が難しくなった海外の金融機関には、欧米に比べれば動揺が少ない日本市場で、円を借りたうえでドルに交換する動きが目立っていた。しかしごく最近は、ドルの出し手がいなくなり、こうした交換すら難しくなっていたという。
日銀のある幹部は「日銀が枠組みに入ることで、アジアでもドル資金の供給が可能になる。欧米市場が閉まっている間に資金が必要になっても、担保さえしっかりしていれば調達できるようになり、安心感は格段に高まるだろう」としている。(安川嘉泰)