医師数3人以下の病院に勤める小児科医の時間外拘束は月当たり平均200時間以上--。07年10月発行された「日本医師会雑誌」にこんな調査結果が報告された。医師たちが病院から去る要因の一つに、こうした過酷な勤務があるとされる。
常勤小児科医2人の水戸赤十字病院(水戸市三の丸3)に勤務する星川欣明(よしあき)医師(48)に6月のある一日を振り返ってもらった。
午前8時半から夕方まで一般外来や専門性の高い特殊外来を担当。午後5時半から院内会議をこなし、入院患者の様子を確認後、午後8時45分に帰宅した。その後も当直医経由でかかりつけ患者から断続的に数件の電話相談を受け、午前1時には担当する患者が入院したと連絡があり病院へとんぼ返り。容体が落ち着いたのを確認し、再び帰宅したのは午前2時過ぎだった。翌朝はまた8時半から通常勤務だ。多い時期には、深夜の呼び出しが月10回以上に及ぶこともあるという。
「まったく普通のこと。もっと働けると思う」。平然と語る星川医師の感覚は、病院に勤務する小児科医にとって特異なものではない。日本の子どもの医療は、こうした医師たちの使命感に支えられてきた。
だが、過酷な労働環境が医師不足を加速させる要因として認知されるようになったことで、社会の反応が大きく変わり始めた。昨年2月には、北海道労働局が小児科勤務医の過労死を認定している。星川医師は「ここ何年か、保護者から『先生、大変ですね』と心配される」と苦笑する。
全国的に不足する小児科医を確保しようと、国は診療報酬を上げるなどさまざまな手を打ち出してはいる。今年6月には80年代後半から始めた医学部定員の削減方針の転換を表明した。だが、母数は増えても、小児科医の成り手を増やすことは容易ではなさそうだ。
「小児科になりたい人の割合は減っているとは思わない。僕が若い時から100人に3、4人だった」。そう話すのは、県立こども病院で研修医の指導を担当する泉維昌医師(47)。指導する研修医のうち、小児科希望者は10人に1人いればいいと言う。研修医の西田清孝医師(28)も外科志望だ。こども病院での勤務経験を経ても、「小児科は採血一つにしても成人と比べて手間がかかる」という印象は以前と変わらなかった。
星川医師は言い切る。「多くのドクターは子どもを助けようという純粋な感情でしか動かない」=つづく
毎日新聞 2008年9月17日 地方版