「便はいちごジャムみたいな赤さかな。べとべとしていますか」「痛い時とそうでない時に間はありますか」
電話受け付けを始めて15分後の午後6時45分。この日3件目の相談は土浦市に住む7カ月の女児の母親からだった。夕方から血便が続いているという。
ヘッドセットを着け、質問を重ねる看護師の武井千恵子さん(45)の表情が次第に険しくなる。腸の中に腸が潜り込み、対応が遅れると命にかかわることもある腸重積の疑いを伝えると、すぐに土浦市内の2次救急病院へ向かうよう指示した。「入院になるかもしれないからオムツの準備もしてくださいね」
通話を終えて表情が緩んだところに、次の電話が鳴った。
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県は子どもの急な病気やけがについて夜間に相談に応じる「茨城子ども救急電話相談」を04年から始めた。電話番号は短縮ダイヤル「#8000」。毎日午後6時半から4時間、県立こども病院の一室で10年以上のキャリアがある看護師が応対する。
すぐ受診すべきか翌朝まで様子を見るべきか。急を要すると判断すれば救急医療機関の紹介もする。漠然とした不安を抱いた保護者が小児救急を「コンビニ的」に利用するのを少なくする狙いがある。
昨年1年間の集計では、相談は6004件で、子どもの平均年齢は2・2歳。すぐ病院へ行くよう勧めたのは7・8%(471件)だった。軽症が9割以上を占める相談から、電話だけでいかに重症の芽を摘むか。豊富な経験がなければ務まらない。
電話は途切れることはない。「集中し続けるので疲れます」と武井さん。こども病院に勤めて23年になる。通常の日勤に加え、夕方から翌朝までの16時間勤務が月に5、6回に及ぶこともある。これに月2回程度の電話相談業務が重なる。武井さんを含めて、この事業に協力する看護師は全部で22人。「家庭を持つ人がほとんどなので、正直つらいです」。相談が収入につながらない事業に貴重な人員を配置することは病院経営の観点からも負担になる。
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県は回線を2本に増やし、受付時間を午後6時から翌日午前0時までに拡大する方針だ。最終的には一般の診療時間外のすべての時間帯をカバーする目標を掲げるが、見通しは立たない。県内の人口当たりの看護師数は医師と同じく全国最低レベル。さらに、小児医療の豊富な知識と経験がある看護師は必然的に限られている。目標達成への妙薬は見つかりそうもない。=おわり(この企画は八田浩輔が担当しました)
毎日新聞 2008年9月18日 地方版