郡市医師会が日医に反論「9割が聞いてない」―死因究明厚労案
「これでは日医がわたしたち一般会員の代表だとは言えない」―。長崎県諫早市の諫早医師会(原晶会長)が行ったアンケート調査によると、約9割の郡市医師会が、厚生労働省が創設を検討している死因究明制度の第三次試案などについて、「日本医師会や都道府県医師会から質問されたことはない」と答えていたことが分かった。日医は4月に、約8割の都道府県医師会が第三次試案に賛成するとの内容のアンケート結果を公表しているが、今回の調査結果により、日医の信頼性が問われることになりそうだ。
【関連記事】
死因究明で議論錯綜―日本医学会(中)―高原会長と木下理事のやり取り
事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(5)
死因究明制度でシンポ(5)ディスカッション
厚労省第三次試案を評価─日医
医師法21条を「削除」―民主議員案
厚労省は、医療機関で死亡事故などが起こった場合に原因を調査するなどの機能を持った「医療安全調査委員会」(仮称)の設置を柱とする死因究明制度の創設を検討している。
日医は厚労省の検討会にも委員として参加しており、制度の第三次試案や「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」には肯定的な立場だ。5月には「厚生労働省第三次試案に基づく、医師法第21条の改正と、医療安全調査委員会設置の法制化を強く要望する」とする見解を発表しており、この見解は日医が都道府県医師会に対して実施したアンケート調査結果を踏まえたものとしていた。アンケート結果は、「第三次試案に基づき制度を創設すべき」が76.6%、「創設すべきでない」が14.9%などで、8割近くの都道府県医師会が第三次試案に賛成していることを示していた。
■アンケートは一部の意見だけ?
しかし、このアンケートには疑念の声が上がった。7月末に東京都内で開かれた死因究明制度に関するシンポジウムの会場に来場していた高原会長は、日医の木下勝之常任理事に対し、「たった1回のアンケートが根拠で、それに答えたのは(都道府県医師会の)常任委員の一部だけ。郡市医師会まで話が来ていない」と不満をぶつけた。さらに、諫早医師会が第三次試案などに反対する内容のパブリックコメントを日医や都道府県医師会、厚労省に出していたとした上で、「わたしが郡市医師会に対し、地べたの医師会員として問う」と、諫早医師会から各郡市医師会に対してアンケートを実施する考えを伝えた。
■「賛否決まってない」郡市医師会が9割
諫早医師会のアンケートは、960の郡市医師会に送付され、447医師会から回答があった。
それによると、日医や所属している都道府県医師会から厚労省案への賛否を「質問されたことがない」が88.4%に上ったのに対し、「されたことがある」は10.7%にとどまり、郡市医師会の意見が都道府県医師会に反映されていない様子が浮き彫りとなった。
また、厚労省案について理事会などで「正式に賛否を議論した」と回答したのはわずか5.6%。「していない」が72.7%、「議論したが賛否は決めていない」が21.3%で、厚労省案に対する正式な見解がまとまっていない郡市医師会が94.0%にも上っている。
「正式に賛否を議論した」医師会のうち、厚労省案について「おおむね賛成」が3.4%、「趣旨には賛同するが、厚労省案には問題があるのでこのままでは賛成できない」が9.8%、「反対」が3.6%、「回答なし」が83.2%だった。
また、死因究明制度に関連する情報を会員に広報するための説明会などを「実施していない」医師会が95.6%と圧倒的に多かった。
厚労省案の対案となる、民主党の「患者支援法案」についての質問では、「内容まで知っている」が9.4%、「聞いたことはあるが内容を知らない」が48.1%、「聞いたことがない」が41.4%など。また、「議論していない」が98.5%で、ほとんど周知が進んでいない様子だ。
■「日医のやり方、将来に禍根残す」
また、自由回答では、次のような意見が寄せられている。
「日医の常任理事のみのレベルで今回の医師会全体の賛成論議とするのは非常に問題」(兵庫県三田市医師会)
「このような重大な問題を抱えた法案を日医執行部のみが医師会員の意見を問うことなく代弁しているかのごとき処理の仕方は、将来に禍根を残す」(岡山県吉備医師会)
「当医師会でも正式文書で県医師会へ厚労省第三次試案への反対を表明。しかし、議論されずに県常任理事会レベルで賛成表明がなされた。県医師会としての意見の総意を反映したものとは言えず、郡市医師会として無力感を感じており、県医師会への意見上程が必要。民主党案が厚労省案より良いという多くの会員の声を聞いている」(長崎県大村市医師会)
「関心を持って記事を読んでいるが、議論の場や時間が確保できない」(名古屋市医師会緑区支部)
「介護保険制度から後期高齢者医療制度まで次から次へと創設される『新制度』。それでよくなったことはあるのか?」(北海道空知南部医師会)
「この新制度が始まって困るのは国民で、医療従事者ではないことを理解する必要がある」(山口県吉南医師会)
「日医はこの問題でも政府の言いなり。しかも誤った政府の説明(うそとも言える)をそのまま伝えるだけ。医師会員や国民の医療ということがまるで頭にない」(大阪府富田林医師会)
「第三次試案では人間は死なないものという発想があるように思われる。医師が通常の死亡と判断した場合でも、遺族の出方次第で事故死となる可能性がある。航空機事故や鉄道事故と異なり、人間の場合には解剖を行っても死因がすべて分かるわけではないことから、医療事故死の定義を明確にすべき」(広島県呉市医師会)
諫早医師会は9月12日、日医に対して「新しい死因究明制度に関する要望書」を郵送。要望書では、同会のアンケート内容を示した上で、日医が実施したアンケートが会員の意思を表しているものではなかったとして、「この死因究明制度は、わが国の医療の未来を左右するほど重大で、また医療従事者の間でも賛否が大きく分かれる極めて複雑な問題。このような問題については、十分な情報に基づいた広く開かれた議論を行い、なるべく多くの日医会員の合意を得るよう、最大限の努力がなされるべき」とした。最後には、厚労省案だけでなく民主党案も含めた情報を一般会員に周知し、再度議論した上で、あらためて日医としての見解を出すよう要望している。
■活動全般にわたって会員の声を
高原会長はキャリアブレインに対し、「今回は死因究明制度に対する意見をメーンとして日医に声を上げたが、本当は日医の活動の全般にわたって、一般会員の声を吸い上げるようにしてほしいという趣旨がある。きちんと話し合いをしなければならないということ。これでは日医はわたしたち会員の代表ではないのではと思う。会員の合意がないままに、日医の中だけで意見をまとめたものを『会員全員の合意だ』と大声で言ってもらっては困る。日医は診療報酬改定や選挙の時だけ目立って声を上げているが、そうした意見や行動は会員の総意ではないということだ。日医には変わっていただきたい。次期衆院選に向けても、候補者すべての意見をきちんと聞いて決めていくつもりだ」と語った。
また、今後はインターネットなどを活用して郡市医師会の横のネットワークをつくる活動も展開する予定だという。
一方、日医の中川俊男常任理事は17日の定例記者会見後、キャリアブレインに対し、この件について把握していないと述べた。
更新:2008/09/18 22:25 キャリアブレイン
新着記事
郡市医師会が日医に反論「9割が聞いてない」―死因究明厚労案(2008/09/18 22:25)
日医が「禁煙に関する声明文」(2008/09/17 19:42)
更年期障害治療薬「ジュリナ錠」発売―バイエル薬品(2008/09/17 11:55)
注目の情報
PR
過去の記事を検索
CBニュースからのお知らせ
CBニュースは会員サービスの“より一層の
充実”を図るため、掲載後一定期間経過した
記事の閲覧にログインが必要となりました。
今後ともCBニュースをご愛顧いただけますよう、
よろしくお願い申し上げます。
キャリアブレイン会員になると?
専任コンサルタントが転職活動を徹底サポート
医療機関からスカウトされる匿名メッセージ機能
独自記者の最新の医療ニュースが手に入る!
【第28回】工藤高さん(株式会社MMオフィス代表) 病院の経営に変化が起きている。以前はベッドがあり、医師がいて、看護師がいれば、誰でも経営できたが、現在は全体で黒字となっている病院はわずか3割にすぎない。病院にも経営努力が求められる時代にあって、生き残りには何が必要とされるのか。病院を経営するとは ...
島根県では現在、県内の医療機関で勤務する即戦力の医師を大々的に募集している。医師確保を担当する健康福祉部医療対策課医師確保対策室が重視しているのは、地域事情などに関してできるだけ詳しく情報提供すること。実際に生活することになる地域についてよく知ってもらった上で、長く勤務してもらうのが狙いだ。同室で ...
WEEKLY
医療紛争解決に医療メディエーターを
〜北里大学病院の取り組みから〜
医療者と患者の間にトラブルが起こった場合、解決に導く対話を「医療メディエーション」といいます。今回は「医療メディエーション」に組織的に取り組んでいる病院をご紹介します。