吉右衛門が昼夜で大役3役を演じ、成果をあげている。
昼は中幕の「逆櫓(さかろ)」の松右衛門。前半で妻のおよし(東蔵)と義父の権四郎(歌六)への情を見せ、樋口兼光という武将の本性を出してからとの差異を際立たせた。孫の死に怒る権四郎をなだめるくだりでは、再び義理の息子の顔となる。変化が巧みだ。歌六が滋味あるおやじぶり。富十郎の重忠、芝雀のお筆。
序幕が「竜馬がゆく 風雲篇」(齋藤雅文脚本・演出)。染五郎の竜馬、松緑の中岡慎太郎、亀治郎のおりょうが変革時の青春群像をさわやかに見せる。
最後が「日本振袖始」。玉三郎が前半で岩長姫の酔態をおもしろく見せ、八岐(やまたの)大蛇(おろち)の正体を現す後半では素戔嗚尊(すさのおのみこと)(染五郎)に襲いかかる激しさを表現する。福助の稲田姫。
夜の序幕が「盛綱陣屋」。吉右衛門が武将としてのあり方と情の間で揺れる盛綱を奥行きをもって描き出した。芝翫(しかん)の微妙(みみょう)に格調と愛情が感じられ、2人のやりとりに、弟の高綱とおいの小四郎(宜生)への思いが浮かびあがる。玉三郎、福助、左団次、歌六と、周囲もそろう見応えある一幕。
次が「鳥羽絵」。富十郎の升六が軽妙で、鷹之資(たかのすけ)のねずみがしっかりしている。
最後が「河内山」。吉右衛門が自在なセリフで河内山のしたたかさと悪党ぶりを表現し、松江侯の染五郎が短気な殿様をうまく見せた。芝雀の浪路、錦之助の数馬、左団次の小左衛門、由次郎の大膳。26日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2008年9月18日 東京夕刊