何で辞められたのかが分かりません。何で投げ出されたのかが分かりません。福田康夫さんですよ。このごろになって分かりました。自民党にとって有利だから首相を辞めたということが。
だって、そうでしょう。投げ出し政権を2代も続けた責任をとらないまま、自民党はお祭りのように総裁選挙をやっている。よく、福田さんは会見で「国民の目線で」と言っていました。でも、首相の辞任は党利党略だったということです。
そもそも、国民の目線に応えていません。格差をこれだけ広げて、年金、医療、介護、雇用、教育など、基本的な生活条件が崩壊していっています。みんな将来に対して安心できない。こういう状況で、自民、公明の与党が国民の信頼を失うのは当然だと思います。
以前、福田さんに注文をつけにいきました。森(喜朗)、小泉(純一郎)政権で官房長官をしていたときです。イラクへの自衛隊派遣の問題が中心だったけれど、じっくり話を聞くという姿勢じゃないんです。反応がないんです。今回の福田さんの無責任なやり方にこみ上げてくる怒りをぶつけたところで、けろっとされるんでしょうね。
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自民党の総裁選のテレビ報道を見ていたら、街角で答えた人が言っていました。「こんなに騒ぐことなんですか。総選挙じゃないのに」って。
国民はよほど冷静ですよ。総裁候補になっている5人が、小泉さん、安倍(晋三)さんの政権を担ってきた人ばかりで、自分たちの責任に触れずに、小泉さんの構造改革を批判しながら、「自分こそが改革だ」なんて騒いでいる。国民はこういうことをよく見てますよ。見抜いている。
今の政治に対する不信は漠然としたものではなくて、福田さんや、総裁選の候補者の言動というはっきりしたものに向けられている。自民党はそれに対して応えていないわけでしょ。国民の痛みをいやすなんておこがましい、いやほんとに。
テレビや新聞が一緒になって、お祭りを盛り上げて、解散はいつだろうって予測している。先走りですよ。私は言いますよ、メディアもこの状況に無批判であってはいけません。
確かに、解散は目の前です。でも、自民党の総裁選と、解散・総選挙は別の話。これが混然とする状態はなんなんだろう。はっきりけじめをつけなきゃ。解散をするならば、与党は解散の理由を説明し、野党はそれに対して意見を出す。選挙の争点がはっきりとして、国民が判断しやすくなるじゃないですか。
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今の国会では議論の応酬がない。私は、議員生活36年、仲間とも、意見の異なる人たちともずっと議論をぶつけてきた。議員を辞めた今も議論をするし、議論ができなくなる社会はけんのんでしょ。政治の世界では特に大事です。
なのに、(衆参で与党が多数を占めた)安倍政権は、いけいけどんどんで、法案を強行採決した。邪道の最たるものです。議会制民主主義なんて吹っ飛んでしまいます。福田政権でも、衆議院の3分の2による再可決でやっちゃう。
どちらも制度としては認められてますよ。議会制度は最後は数で決める場所ですけれど、民主主義にとってはそこに至るプロセスが大事なんですね。だから、議論を尽くすとか、議論を重ねることが非常に大事だと思うんです。
政治は政権交代しないと変わらない。現実的には民主党です。小沢一郎さんは明確な政権ビジョンを有権者に示してほしい。とはいえ、有権者の要求は多様で、自民、民主の2党だけに期待しているわけではない。小選挙区制の宿命ですが、まるで小さい政党は無視されているかのよう。
自民と民主の大連立話も、国民生活のうえから考えても非常に大きな間違いを生みかねない。少数意見が今以上に反映されなくなる可能性があります。私が子どものころ、そういう翼賛議会の生活の中にいた。国民の生活や権利が、大きな政党の都合で勝手に切り刻まれることがどんどん出てくるでしょう。
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ねじれ国会は1989年の参院選の時にもあった。そう、「山が動いた」ときです。自民党が負けて、社会党などの野党が参議院で多数になった。あのときも、参議院を軽視したり、ないがしろにするのは間違いだと言いました。衆議院では自民党が多数だが、参議院に民意はあると。今と同じ状況です。
政治の現場を離れると、見えてくるものもある。厚生労働省の担当者が後期高齢者医療制度についての講演で「医療費が際限なく上がっていく痛みを、後期高齢者自らが感じ取っていただくことにした」と説明した。国会議員には委員会などで上手に答弁するのに、本心ではいたわりや温かさを欠いている。
平和を大事にと言うと、またですか、という対応が広がっています。でも、平和のために、憲法を生かしていくという信念を強く持って具体化する努力を払う、というぐらい大事な問題はないと思っています。憲法を尊重したうえで、国民の幸せの方向に、もっとよい憲法に発展させていくことです。
国会は唯一の立法機関であるがゆえに、国権の最高機関です。国会議員一人一人が立法機関としての役割を尊重する気構えを持ち、自負心や責任感を持たない限り、最高機関であり続けることはできないんです。
そして、もう一つ。政治家は誠実であるべきです。自分はこれが大事だからこうします、と言った問題は裏切らない、うそをつかない。それが大事です。
■会って一言
東京都港区の雑居ビルに入る事務所で、おたかさんは、「反核」と書かれた湯飲みで茶をすすった。各地から招かれて講演する「憲法行脚」の活動は、多い時には週3回。「現役のときには、県都や大都市を走った。でも今は、シャッターを閉めた商店街を回っている。こういうところにもっと早く来るべきだったと切実に感じます」。高校生から招待されたことも。「どうして私を、と聞いたら『元気そうだから』って。うれしいわよ」。翌朝の電話にも「取材を受けたら元気になった」と語るおたかさん。「憲法9条を失わない。これを果たせるまで走ります」【坂巻士朗】
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■人物略歴
1928年、神戸市生まれ。79歳。同志社大大学院修士課程修了。69年、衆院初当選。86年に社会党委員長、93年に細川護熙内閣発足で憲政史上初の女性衆院議長。96年、社民党2代目党首。05年の衆院選で落選した。「憲法行脚の会」呼びかけ人、「アジア人権基金」代表。
毎日新聞 2008年9月18日 東京夕刊