2008-09-16
ダンスをやる気のある人とない人の見分け方
前回の記事では、ダンスの技術についての説明が足りないという人がいたので、今度はさらなる詳細について書いてみる。それと併せて、ダンスの詳細を見ることによって、やる気のある人とない人を見分けられる――ということについても書いていく。
興味深い記事
その前に――
SUKEBENINGEN氏のブログ「SUKEBENINGENSUKEBENINGEN」に、非常に興味深い記事があったので、それを紹介する。
この記事では、ボディビルの「バルク」と「カット」になぞらえて、絵の「技術的な上手さ」と「完成度」の関係について述べている。詳しい内容についてはリンク先を読んでもらうことにして、ここでは簡単に要旨を述べると、
「『技術的な上手さ』と『完成度』というのは背反するものだ。このバランスをどう配分するかで、絵の価値は決まる」
というようなことを言っている。
「技術的な上手さ」と「完成度」の関係
絵というのは、技術を上げようとすると完成度が損なわれる。完成度を上げようとすると技術が置いてけぼりになる。両者はそうしたトレードオフの関係にあり、うまく両立はできないのだ。
技術がないのに完成度ばかりが高いのを、いわゆる「小さくまとまる」という。こういうバランスで絵を描くと、一般には受けが良いが、絵の詳しい人には物足らなくなる。
反対に、技術を求めるあまり完成度がおぼつかなくなるのを、いわゆる「荒削り」とか「未完の大器」とかいう。こういうバランスで絵を描くと、一般には評価は低いが、絵の詳しい人には受けが良い。
そうして絵の詳しい人は、「小さくまとま」った絵をこき下ろす。「あんなものには価値がない」と。
そればかりでなく、それを褒め称える一般の人をもこき下ろす。
「おまえらは害悪だ。おまえらが、絵も分からないのにそうやって褒めるから、絵描きが勘違いして、それ以上の技術向上を怠るようになるのだ」
上のSUKEBENINGEN氏の記事も、そういう論法に則ったものとなっている。
ところで、この「技術的な上手さ」と「完成度」(ボディビルで言うなら「バルク」と「カット」)の関係は、絵やボディビルにとどまらない。およそあらゆるジャンルの表現に当てはまる。そうしてそれは、もちろんダンスも例外ではない。
ダンスにおいて完成度を上げる方法
ダンスには、直線的な動きをすることで、ロボットのようなカクカクとした動きを表現する振り付けがある。
これを踊る時に、技術的に上手い人は、以下の図Aのような動きをする。
(図A)
この振り付けは、リズムのところで曲がる角度が小さいと、カクカクした表現はとても難しくなる。しかし、直線的な動きがしっかりできていると、図Aのようにそれをちゃんと見せることができる。
これに対して、技術がない人の踊りだと下の図Bのようになる。
(図B)
技術がなくて直線的な動きができていないから、カクカクとした表現をすることができない。曲がるところでも、きっちりと頂点を描けないから、リズムを見せることもできなくなってしまっている。
ところで、こうした状態であるにも関わらず、とりあえず完成度だけを上げると、こういう動きになる。
(図C)
このように、曲がるところに小さくアクセントを入れることで、リズムを見せることができるようになる。また、図Bに比べると、多少カクカクしたようにも見える。
しかしこれは、まさに「小さく」まとまった状態に過ぎない。確かに見栄えは良くなったが、肝心の技術――つまり「直線的な動き」はおざなりになったままだ。
完成度を上げることの弊害
こうした「完成度を上げる」ということには、実は大きな副作用が二つある。
一つは、アクセントとして余計な動きを入れることで、それがクセとして定着してしまい、それ以上の技術向上を阻むこと。もう一つは、とにもかくにも見栄えが良くなったことで、それに満足してしまい、向上心が大きく失われること。
完成度を上げることには、「それ以上の技術向上を阻む」という、大きな弊害があるのだ。
完成度を上げてしまう人
と、ここで質問である。
上記の、図Bと図Cを見比べて、どちらが良い踊りと言えるだろうか?
……いや、それについては、一般と詳しい人とで意見が分かれるだろうから、ここではこう聞くことにしよう。
一体、この踊りのどちらに「上達への意欲」がうかがえるだろうか?
一体、この踊りのどちらに、踊る人の「やる気」を感じられるだろうか?
答はもう、つまびらかにするまでもないだろう。完成度を上げてしまう人というのは、目先の誘惑に負け、技術の上達をおざなりにする人なのである。つまり、そこで上達への意欲を失ってしまっている人なのだ。ダンスをやる気のない人だ。
まとめ
「ダンスをやる気のある人とない人の見分け方」は、ただ一つ。小さくまとまっているか否かである。
小さくまとまっているのは、やる気のない人。小さくまとまっていないのは、やる気のある人だ。
そうしてこれは、ダンスだけに当てはまるものではない。およそ「表現」と名の付くものなら、どんなジャンルにでもいえることだ。
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