大手金融機関が経営破綻(はたん)や政府による救済にまで立ち至った米国の金融危機は、日本経済にも悪影響を及ぼす。
今年4~6月期の実質成長率は前期比、年率でマイナス3%だった。7~9月期も立ち直りの兆候は出ていない。米国経済が金融危機の影響でより不況色が強まれば、日本は輸出の減少のみならず、海外需要を当てにしてきた民間設備投資の停滞も深くなる。企業業績が悪化すれば勤労者の賃金も伸び悩み、個人消費も抑えられる。
ところが、総裁選中の自民党のみならず、政治全体が、世界同時不況をも招きかねない事態への感度が鈍いと言わざるを得ない。
政府は17日、経済財政諮問会議を開いた。「緊急総合対策」を決定した先月29日以来だ。総合対策は米国のサブプライム問題に端を発した世界的な成長鈍化や原油高に直面している日本経済へのテコ入れ策だ。緊急を要する施策は直ちに実行するとされている。
先月末からの約3週間、世界経済は激動した。日本経済への影響も、違ってきたはずだ。それにもかかわらず、政治は動かなかった。17日の会議も情勢分析段階にとどまった。
緊急性の高い対策であればあるほど、講ずべき施策の内容は異なってくる。一時、1バレル=140ドル水準まで高騰した原油価格は、反落し90ドル程度になっている。総合対策の原油高騰への緊急対策は、内容を見直すのが当然だ。
米国の金融危機が深刻化すれば、日本の金融機関も連想で、厳密な審査など、貸し出しを絞る行動に出やすい。そのあおりを受けるのが中小・零細企業である。そこで、金融の円滑化や貸し渋り対策は一段と重要になる。
また、輸出の低迷長期化や外国為替市場で円高が進めば、元請け企業は競争力回復のため下請け代金の切り下げなどに走りがちだ。下請け企業へのしわ寄せである。こうしたことへの対応として、下請け事業者保護対策は強化しなければならない。
政治空白と言われる状況にせよ、時の政権が経済運営や政策判断を怠ることや後回しにすることは許されない。米国の金融危機のように短期間に状況は激変する。福田康夫内閣は臨時国会で次期首相指名が行われるまで、経済運営を担わなければならない。総合対策を決定した以上は、事態の進行を見定めつつ、緊急実行施策は見直しも行い、具体化しなければならない。
追加予算措置が必要な施策のための補正予算をいつ編成し、国会審議はどうするのかも明らかでない。総選挙の時期と絡んでいるにしろ、自民党の方針が定まっていないのはおかしい。
世界経済は刻々と変化している。それを的確にとらえ、必要な施策を講ずるのが正常な経済運営の姿だ。
毎日新聞 2008年9月18日 東京朝刊