最悪の危機の連鎖は、ひとまず回避された。米証券大手、リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)による衝撃が世界の金融・証券市場を大きく揺さぶる中、米金融当局が同国最大の保険会社、AIGの破綻阻止に動いた。リーマンのように倒産を許すには、国内外への打撃があまりにも大きすぎると判断したようだ。最大約9兆円の公的資金を使うことになり、批判も受けるだろうが、世界的な波及を防ぐうえで避けてはならない措置だった。
AIGは保険事業に加え、サブプライムローンを組み込んだ証券化商品の保証業務などを積極的に手がけていた。経営不振に陥ったのは、主にこの分野で損失が拡大したためだ。同社が破綻すると、被害が多数の取引相手に伝染し、市場が大混乱しかねなかった。世界で展開する保険事業など同社の他部門があおりを受けて、契約者に影響が及ぶ事態も心配された。
ただ、今回の措置はAIGの存続を目的とした救済というより、政府の管理下で周囲への打撃を最小限に抑えながら、解体を進めるという内容のようだ。同社は日本でも複数の生命保険会社や損害保険会社を運営し、身近な存在になっている。リストラの過程で、今後、国内事業の売却もあり得るが、契約者の権利の保護を何より優先するよう求めておきたい。
AIGの破綻回避により、パニックに陥りかけていた欧米の金融業界は、一時的に窮地を脱した形だ。だが、ここで気を抜いてはならない。経営が不安視されている金融機関はまだ他にもある。預金業務を行う大手銀行も含まれる。
米当局も金融機関も、今回のように市場から追い詰められて最後に手を打つのではなく、一時的に“休戦状態”となったこの時間を最大限に生かし、不安の解消に努めてもらいたい。
これまでも指摘してきたが、住宅価格が下げ止まらない以上、金融不安は最終的に解消しない。7月に成立した米住宅法の目玉の一つである低利住宅ローンへの借り換えが速やかに進むよう、官民ともに作業を加速させてほしい。
一方、英銀大手のバークレイズが早速、破綻したリーマンの北米投資銀行部門を買収すると発表した。リーマン、AIGに限らず、これから金融機関の解体や事業の売却、業界再編が世界的に進むことだろう。
国内金融機関への影響としては、損失の波及など、マイナス面が強調されがちだが、余力のある金融機関にとっては、海外事業などを拡大するうえで、まれなチャンスといえる。自力で構築するには時間も費用もかかるビジネスを、通常よりはるかに安く海外の金融機関から取得できるかもしれない。
首をすくめて嵐が過ぎるのを待つのではなく、好機に変えるべく、戦略的に攻める姿勢も望みたい。
毎日新聞 2008年9月18日 東京朝刊