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ジャーナリズム崩壊 [著]上杉隆

[掲載]2008年8月31日

  • [評者]小柳学(編集者)

 自民党本部で別の政治家の面会ののち、著者は自民党記者クラブでの会見場に勝手にもぐりこむ。フリージャーナリストとして質問すると、スタッフが近づきこう言う。

 「困ります。断じて困ります」

 体験をもとに、ジャーナリズムの現状を報告している。

 番記者を前にした、毎日の首相会見は、事前に首相秘書官が「助言」をし、「質問して総理が2回はぐらかしたら、次の質問に移るのが慣例」らしい。そんな「お約束」をあげたうえで、記者クラブは「牢獄(ろうごく)」だとする。記者クラブとは、官公庁などからの情報を大手メディアが受ける日本独自のシステムのことだ。

 ここまで書いて業界全体から「出入り禁止」にならないか。しかし、意外なことに、当の政治記者から「よくぞ書いた」というメールが著者のもとに寄せられているという。

 読者層は20〜50代まで幅広くビジネスマンが多い。「情報が正確に伝えられないことで、どういう経済的な不利益がもたらされているかという関心から読まれているようです」と担当編集者の木原いづみさん。

 NHK、朝日新聞、読売新聞、新潮社なども批判の矛先に。一方で、著者が活動したニューヨーク・タイムズの記者個人を徹底的に信用するジャーナリズムのあり方も報告されている。もうひとつのモデルを出すことで、読者からは「これからどうしたらいいか、考えるきっかけとなった」という声もある。

 記者クラブの弊害を指摘した本は以前からあったが、売れて話題になることはなかった。それがここにきてベストセラーになっているのは、メディアの変化を受け手側のほうがより感じているからかもしれない。

    ◇

 2刷・7万部

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