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2008年9月18日

◎尊経閣文庫分館 看板にふさわしい運営を

 二十日にリニューアルオープンする金沢市の県立美術館で、県にとって極めて大事なの は加賀藩前田家ゆかりのコレクションを展示する「尊経閣文庫分館」の運営である。前田育徳会(東京都目黒区)が管理する同文庫の金沢誘致が将来的な課題となっているが、まず分館の運営を看板にふさわしい形で軌道に乗せることが夢を実現に近づける一歩となろう。また、ハードの面からも現在の収蔵庫の機能が分館として十分なのかという視点がいる。

 尊経閣文庫は前田家に伝来した典籍、古文書、美術工芸品など膨大な文化財で構成され 、国宝二十二点、重要文化財七十六点を含む日本の一大コレクションである。このうち約四百点が県立美術館に保管されている。東京の収蔵品も含め、「分館」という名称でそれらを公開していくことは、「天下の書府」と呼ばれた加賀藩の文治政策にあらためて光を当て、今日まで引き継がれた財産の価値の大きさを知ってもらう機会となる。

 尊経閣文庫分館では第一弾として国宝の「土佐日記」(藤原定家筆)が特別公開される 。これまで何度となく金沢で展示されてきたが、県民に十分に認知されているとは言い難い。国宝を公開するからには、それにふさわしい情報発信の方法があるだろう。

 従来の「前田育徳会展示室」ではテーマを設定して展示替えをしていたが、収蔵品を小 出しにして公開するだけでは尊経閣文庫の本当の価値は見えてこない。来年二月には分館設置後、初の特別展となる「加賀百万石名品展」が開催され、文庫の名品を数多く展示するようだが、県民に分かりやすく価値を訴えるような機会を積極的に増やしてほしい。

 収蔵庫についても分館の名に値する機能、スペースなのか考えていく必要がある。将来 的な誘致もにらめば、ハード、ソフト両面にわたって「受け皿」にふさわしいのかという視点が何より大事になるからである。

 城下町の財産を核とした県都づくりや、ふるさと教育の全県的な広がりで加賀藩の歴史 や文化への関心が高まっている。尊経閣文庫分館には、そうした熱気をさらに盛り上げる役割を担ってほしい。

◎AIGの公的救済 恐慌回避へ必要な措置

 金融恐慌を防ぐには、こうするよりほかに手はなかった。米連邦準備制度理事会が米保 険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に公的資金を注入し、政府の管理下に置いた。米金融当局が米証券大手リーマン・ブラザーズの救済拒否からわずか一日で方針転換したのは、リーマンの破たんが世界の金融市場に及ぼした衝撃の大きさに恐れをなしたからでもあろう。ここでAIGまで「見殺し」にすれば、リーマンの破たんがAIGを追い込んだように、ドミノ倒しのごとく金融機関が連鎖破たんする恐れがあった。AIGの公的救済は恐慌回避のために必要不可欠な判断だったといえる。

 リーマンの経営破たんは、世界の株式・為替市場を直撃した。経営に不安のある金融機 関との取引を避けようとする動きが広がり、銀行間の貸し出し金利が急騰し、資金の流れが急速に細った。どこが第二のリーマンになるのか疑心暗鬼に陥り、その「標的」となったAIGは株価が急落した。公的救済が無ければ持ちこたえられなかった可能性がある。

 米金融当局がリーマンの救済を拒否したのは、モラル・ハザード(経営倫理の欠如)の 懸念と、金融機関救済に対する国民の批判を恐れてのことである。金融危機を経験した日本でも、金融機関への税金投入には強い批判があったのを思い出す。今振り返って思うのは、中途半端な救済や小手先の措置では、市場に信頼されず、問題解決を長引かせるだけに終わるという苦い教訓ではなかったか。

 民間金融機関の救済は、できる限り民間に任せよという理屈は正しいが、リーマンだけ で六十四兆円という途方もない規模の負債を生む要因となったサブプライムローンのツケは、もはや民間の力だけではいかんともしがたい。米金融当局が、公的資金の投入をちゅうちょしないという姿勢を行動で示していかないと、「負の連鎖」は止まらないだろう。明確な基準もなしに救済したり、しなかったりでは、市場の信頼は得られない。米国は自国発の金融危機を回避する責任がある。


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