古代中国の魏の君主文侯が政治顧問の李克に、宰相人事で意見を求めた。李克は具体的な名を挙げず、人物を見定める五項目のポイントを示したという。
その中にあるのが、「窮地に陥った時に不正をしなかったか」と「貧しい時にむさぼり取らなかったか」。宰相でなくても人間としてわきまえるべき事柄であろう。
しかし、この一線を安易に越える風潮が多く見られる。「経営が厳しくて」。残留農薬やカビ毒に汚染された事故米を食用に不正転売していた業者の弁だ。あまりのハードルの低さにあきれてしまう。
農林水産省は十六日、調査状況の報告と再発防止策を発表した。不正転売していた業者はさらに増えて四社に。最初に発覚した三笠フーズ(大阪市)の不正転売先は延べ約三百八十業者と、これまでの四倍以上に膨れた。さらに広がる可能性もあり、複雑さと根深さを物語る。
再発防止策は、政府による汚染米の販売を取りやめ、輸出国に返送するか焼却など廃棄処分することなどを打ち出した。不正流通の全容解明とともに対策の実効性が問われる。
不正転売問題では、業者内部での責任のなすり合いや、農水省のずさんな検査、農水相の問題発言など関係者の意識の「汚染」があぶり出された。食の安全・安心の確立へ、大なたを振るう時だ。