米国のサブプライム住宅ローン問題による金融混乱が新たな局面を迎えた。米証券四位のリーマン・ブラザーズが日本の民事再生法に相当する米連邦破産法一一条の適用を申請し、経営破たんした。負債総額は米史上最大の六千百三十億ドル(約六十四兆円)に上っており、世界経済への影響は避けられない。
経営破たんを受け、欧米の株式市場が急落したのに続き、連休明けの東京株式市場でも日本株が全面安となった。為替市場へも影響は広がっており、金融不安は募るばかりだ。日米欧の中央銀行は短期金融市場の動揺を抑えるため、合わせて十五兆二千億円を超える大量の資金供給に踏み切り、市場沈静化へ協調姿勢をとった。当面はその効果に期待したい。
リーマンは昨夏以降、サブプライム関連の損失を計百四十億ドル超計上しており、株価が急落するなど経営不安が高まっていた。米金融当局は先週末、民間金融機関首脳とリーマン救済策について緊急協議し、優良資産を売却した上で、大手金融機関が資金支援する分割案などを検討したとされる。
しかし、金融機関側が救済支援や将来の損失などのため公的資金の活用をはじめとする政府側の関与を要請したのに対し、政府側が拒否したため合意できなかった。ポールソン米財務長官は記者会見し、政府が救済する考えは一切なかったことを明らかにした。
一方で、米政府は政府系住宅金融大手二社を今月、政府管理下に置く形で救済した。今年三月には証券大手ベアー・スターンズが危機に陥った際、連邦準備制度理事会が大恐慌以来という銀行以外への金融機関向けの緊急資金供給を決め、大手銀行による買収を後押しした。
今回、ポールソン長官はベアー・スターンズの時とは「状況が違う」と述べた。十一月の議会・大統領選を控え、有権者の批判につながる恐れがある税負担の増大を懸念したとの見方もある。しかし、今後もほかの金融機関の経営不安が強まる恐れがある。リーマンの破たんに合わせるようにサブプライム関連で経営が悪化していた証券大手メリルリンチは、米銀大手のバンク・オブ・アメリカが事実上、救済合併することになった。米政府は金融不安に歯止めをかけるため、責任をもって一段の対策を講じるべきだ。
日本国内でも、景気の下振れ懸念が強まる可能性がある。政府・日銀は各国の中央銀行とも緊密な連携をとりながら、市場安定のために慎重なかじ取りが求められる。
被害が拡大している振り込め詐欺に対処するため、警察庁、金融庁の担当局長と全国銀行協会の会長が十六日、初めて会談し、意見交換を行った。また警察庁は同日、十月を振り込め詐欺対策の強化推進期間とし、被害防止に努めるよう全国の警察に通達を出した。
ここ数年横ばいだった振り込め詐欺の被害が今年は急増し、上半期の全国の被害総額は前年同期比約一・六倍の約百六十七億円に上っている。振り込め詐欺の知識があってもだまされる人が多い。それだけ手口が巧妙化している。最近では税務署や社会保険事務所の還付金手続きを装い、高齢者らに現金自動預払機(ATM)を操作させてお金を指定口座に振り込ませる還付金詐欺が増えている。
会談で、警察庁はATM周辺の対策強化などを説明した。同日の通達も過去に現金引き出しに使われたATMへ私服警官を配置したり、十月十五日の年金振込日を「ATM集中警戒日」とし、制服警官らで積極的に声掛けするよう求めた。
全銀協からは、限度額ぎりぎりの出入金が多いなどの特徴から犯行に使われている疑いのある口座をあぶり出せる「不正口座監視システム」の説明があった。実際に名古屋銀行で運用中で、全銀協は加盟各行に導入を促していくという。
金融庁など関係省庁も被害防止や被害者救済のための法整備を進めている。緊密な情報交換を基に関係各機関で備えを一層強化してもらいたい。
個々人の注意が大切なことは言うまでもない。高齢者の被害が多い点を念頭に、全銀協は家族間で緊急時の合言葉を決めることなどを呼び掛けている。各方面の努力により、卑劣な犯罪を断じて許さぬ環境を整えていかなければならない。
(2008年9月17日掲載)