米証券大手リーマン・ブラザーズが破たんした。経営不振が伝えられる金融機関は他にもあり、信用不安の広がりが懸念される。米政府当局は連鎖倒産を防ぐために、万全の手だてを講じてほしい。
米財務省や連邦準備制度理事会(FRB)はリーマンの破たんを避けるために、十二日から欧米の主要金融機関の首脳たちを集めて対応策を検討したが、ポールソン財務長官が公的資金の投入を受け入れず、最終的に協議がまとまらなかった。
リーマン・ショックは世界の金融市場を駆け巡り、各地で株安、ドル安が進んだ。東京株式市場では全面安の展開となり、前週末比で六百円以上も下落、一万二〇〇〇円の大台を割り込んで、年初来安値を更新した。
金融機関の信用不安が米国の実体経済を一層冷やし、世界経済に悪影響を及ぼすという悲観論が広がっている。当面の焦点は、経営破たんがリーマンだけで終わるのか、それとも連鎖的に広がるのかどうか、という点だ。鍵を握るのは、米当局の姿勢である。
財務長官がリーマンへの公的資金投入を拒否したのは、先に救済した政府系住宅金融機関二社と違って、金融市場への打撃が少ないという判断に加えて、純粋な証券会社を政府が救済する先例をつくれば、民間の経営規律が失われる心配があったためだ。
十一月の米大統領選を控え、納税者からの反発を避けたい意向もあっただろう。今後、別の金融機関に経営危機が生じても、財務省は公的資金投入を封印し、側面支援にとどまる可能性が高い。
株式市場では、リーマンに続いて保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の株価が急落し、信用不安が高まっている。FRBは証券大手ゴールドマン・サックスなどにAIG支援の融資枠設定を要請しているが、不透明感が続きそうだ。
米当局は直接の公的支援が難しいとしても、短期市場への資金供給拡大など市場の不安感を取り除くために、あらゆる手段を動員すべきだ。
金融機関の破たんは目先、荒療治になっても、金融業界の再編を促して復活が早まる可能性もある。うみを出し切らずに対症療法を続けるより、思い切った外科手術が有効かもしれない。
幸い、日本の金融機関への悪影響は限定的とみられる。ここは一般の家計も政府・日銀も、慎重に事態の推移を見極めたい。
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